仕事を二ヶ月で辞めた私は、「さて何をしようか」と考えていた。だが、これといったアイディアもなく、貯えなどは
そんなとき、五流馬鹿医大生であったアニキが、事あるごとに「薬」の
「薬は凄い。病を打ち砕く人類の宝だ。よく考えてみろ。臨床に進み、外科手術をやりまくって、一生で何人の命を救えると思う? 五千人だよ、五千人。それも凄いことだが、新薬は全く違うぞ。
私は、そのことをふと思い出したのだ。アニキの言う薬を創る過程を実際にこの目で見たくなったからである。
インターネットで、「治験」と文字を打ち込み、検索。すると無数のサイトがヒットした。
だが、その多くは、怪しい紹介料を取るような業者だった。
「高額アルバイト大募集! 日給二万~三万円」
「寝ているだけで楽して稼ぐ! アルバイト情報誌には載らない秘密の募集」
などと
これは当然といえば当然で、そのバックボーンには治験に関する正しい情報自体が
なぜ載せられないかというと、実態を知るとちゃんちゃら
だが、いくらボランティアだといっても数日間、場合によっては数週間、月単位で身柄を
どこまで行ってもあくまでボランティアなのだという彼らの認識。事実、このボランティアというキーワードで検索してみると、大手の病院と提携している、比較的真っ当な治験情報会社に辿り着いた。
「金銭を振り込めと言われたら、即中止しよう。それなら被害はないはずだ」
こう思い、私はまず登録だけすることにした。
そして私は、都合三社の治験情報会社に会員登録をすることになった。治験情報会社のサイトには、現在募集中の治験情報を閲覧できるページがある。そこから、各々に合った条件の治験を見つけ出すというもの。この治験情報募集ページを閲覧するには、情報登録会社のサイトから会員登録を行い、IDとパスワードを発行してもらう必要がある。
早速、登録画面に移り、基本的な個人情報データを入力する。住所、氏名、身長、体重、既往症、アレルギーの有無等……。結構細かいところまで質問は及び、「最高血圧と最低血圧を入力せよ」とまである。
慢性高血圧の後期高齢者ならともかく、二十代で自分の血圧を知っている人間がどれくらいいるのだろうか。大きな疑問を感じたが、とりあえずネットで調べた正常な範囲である最高血圧一二〇、最低血圧七五と適当に入力した。
完了かと思いきや、エラーが出てきた。
「住所が適切ではありません」
よくよく見直していると、登録住所が関東に限定されていたのである。私は非関東地方在住のため登録ができなかったのだ。
さまざまなサイトをチェックしたところ、日本で行われている健康な成人を対象とする治験のほとんどは関東で行われており、東京、神奈川、山梨、千葉、埼玉、栃木、茨城、群馬以外の人間は参加することができないらしい。
もちろん治験登録会社が情報提供をしている病院に
後にプロ治験の先輩方に教えていただいたところによると、浜松医科大学医学部附属病院や名古屋大学医学部附属病院、大阪大学医学部附属病院等でも治験募集をしていることがあるらしいのだが、外部からの応募は不可で、その病院の関係者の知り合いに限定される。
非関東在住の人間は、事実上
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