治験に向いている人はどんな人であろうか。それは、とにかく怠け者で、現代の価値観を真っ向から否定できるつわものである。働きたくない、とにかく楽をしたい等、世間一般的にはタブーとされることを突き詰めたい人に、特におススメする。
私は、治験一本で喰っているが、参加者すべてが、「プロ」という訳ではない。中には学生や、自営業の人も混じっている。これは時期に左右される。春休み、夏休み、冬休み等である。
一般的に、大学の長期休みに入る時期には、学生の参加比率が非常に高まる。一回の治験は、多くて三十名、少ないと十名前後の被験者での実施となるのだが、その内の五〇パーセントは学生ではないかという印象である。
もちろん、個人的にアンケートをとった訳ではないので、パーセンテージについては不確実な部分もあるが、私が出会った人ではそうであった。経験則である。
学生の参加者で多いのは、ネットの募集である。便利な時代になったもので、一昔前までの治験は、医療関係者(病院勤務の看護師や薬剤師、放射線技師等さまざま)からの紹介が一般的であったが、今は治験募集会社が営利目的に募集をかけている。この治験募集会社が
「お金はないが、健康だけには自信がある」
そんな若いあなたには、治験は向いているかもしれない。このご時勢、アルバイトをしたところで大した金にはならないことは周知の事実だ。金がまともなことをしていても貯まらないのは、無意識の内に理解している人が多いのではないか。長期治験を一回こなしても、せいぜい三十万から五十万円程度。ただ、時間は自由に使える。投薬日以外は。その時間を有効に使える人は治験に向いているといえる。
私が出会った中で、一番真面目(?)だったのは、司法試験の受験生である。彼は、メシのとき以外、ずっと、ずっと六法全書を片手に、
多くの病院では、衣食住はすべて提供される。服は病院の入院着で、かっこよさレベルは
食事は三食提供。しかも、病院によってはかなり手間暇をかけた非常においしい食事が毎食提供される。かき揚げうどん、うな丼、牛ステーキ、刺身……。これらは実際に私が食べた食事の一例である。申し訳程度に出されるのではなく、本格的に食べられる。ただ、摂取カロリーを極めて厳密に管理されているために大食漢にとっては物足りないと思われる。
住む場所は、ゴージャスな個室……と書きたいところだが、現実には、どこにでもある病院の
この病院は赤字経営が続き、やむなく治験に手を出したのだが、その
病室では、ワイファイが無料で使えるところがほとんどだ。何もすることがない人にとって、入院期間中の長い長い自由時間をどのように過すかというのは悩みの種であるが、ネット中毒の人にとってはこのうえない環境が提供される。
ただ、周囲の目はいつも気になる。病室にはカーテンがあるのだが、就寝時間以外は、そのカーテンを閉めることは許されない。何でも、プライベートの空間があると、「良からぬことをするのでは」と病院は警戒しているのだ。
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