十五分ごとに、採血針が私の血管を突き破る……。
今朝、ファイザー製薬の開発したアルツハイマーの新薬を飲んでから採血の連続。
動物で唯一アルツハイマーに
もちろん、治験には意義がある。新薬が開発されることで、何万、何十万という、病に苦しんでいる人々に光をもたらす。
「人類の進歩」
「医学の発展のため」
だが、そんな
考えていることはただ一点。
「とにかく、金が欲しい……」
五回目の採血までは覚えていたのだが、今は記憶がない。
ないというよりは、忘れた。
考えれば考えるほど、永遠とも思える時間と一定の周期で回ってくる採血がつらくなるだけだから……。
痛さも、採血回数が増すごとに
だが、人間の腕の採血できるポイントなどそう多くはない。二度、三度と同じ場所に針を刺すと、皮膚は
その色は、青、いや、正確には限りなく黒に近い青。
私の周りを見渡すと、大部屋に十五
被験者の顔色は極めて悪く、
当然だ。
一週間以上も
また、総じてだらしがない顔つき。そして
薬は毎日飲む訳ではない。飲まない日は到って暇で、一日中漫画を読んだり、持ち込んだパソコンでネットをやったり、テレビゲームをやって時間を過す。大の大人がみっともないことこのうえない。
採血は、一分間隔。看護師が各ベッドを回り、採血を行ってゆく。看護師の顔に笑顔や、また被験者への配慮はない。当然だ。この女性看護師は当直明け。疲労
一度に採血する量はそう多くはない。おおむね一〇㎖。
たっぷりと血を吸った採血管を、補助看護師が数回振ると共に、規定量採血できているか確認。振るのは血液凝固防止剤としてクエン酸ナトリウムを含ませるためだ。その後、採血管をクーラーボックスにしまう。
私の番が、また、やって来た。
「
「……はい」
私はゆっくりと上半身を起した。看護師は私の名前を確認すると共に、採血管のID番号を確認している。腫れ上がった私の
そして、アルコールの匂いが鼻を刺激する。
正直もう
だが、むやみに動いたり、力むことは危険だ。疲れきった看護師の集中力を狂わせ、採血針は、血管ではなく筋肉に突き刺さる。
この痛さは、まさに筆舌に尽くしがたい。ただ、黙って、上手に採血が終わることを祈るだけだ……。
「ちょっと、チクッとしますよ」
「……ウッ」
針は、
現実には二十秒ぐらい。
だが、私には、その何倍もの時間。
存分に血液を吸い取った採血管は、私の腕に刺さっている真空採血管用ホルダーから離れ、採血を補助する看護師の手に渡る。そして、規定量の確認。そして、その看護師の声が響く。
「……量OKです」
その声を聞くと駆血帯を解く。そして、腕に刺さった採血針をゆっくりと抜く看護師。この、針を抜くときが、刺すときと同じほど痛い。針を抜くと同時に、小さなアルコール綿布を四つ折にしたものを、先ほどまで針を刺していた場所に当て、止血バンドで押える。
そして、痛さを
採血メリーゴーランド。
ふと隣の被験者を見ると、苦痛で顔が
グッと奥歯を
誰だって痛いに決まっている。
だが、私たちに弱音は吐けない。
なぜなら、「職業」として生計を立てる「プロ治験者」だから。
日本だけに留まらず、欧州、南米と世界の治験を体験した著者が、薬が生まれる前での恐るべし工程を綴った一冊、続きが気になる人はこちらからどうぞ!