彼が幸せならそれでいい
さて、cakesでの連載は今回が最終回である。2014年3月に始まった連載のうち、なぜか代表的なシリーズとなってしまったのが、担当編集者のaikoへの熱烈な想いを聞くというもので、年1回はその言い分を垂れ流す機会を設けてきた。一方通行な想いばかりだったが、本人としては意思疎通ができていると思っているらしい。こちらには、その判断を覆すほどの根拠も熱意もないので放置していたところ、記事がそれなりに読まれたこともあり、編集者は他媒体からの取材を受けるなどして、「aiko好き編集者」として局地的に知られるようになった。
編集者は口を開けば「aikoしか見えない」的なことを繰り返しておきながら、いつの間にか結婚し、今では子育てのために、これまでの勤務形態を変更しながら働いている。その働き方に対し、「ワーク・アイコ・ライフ・バランス」なる新概念を提唱し、自分を肯定するようにライフにaikoを染み込ませて、バランスをとっていた。昨年末、aikoは、ツアーファイナルの日にステージ上で結婚を発表したが、その直後に話を聞いたところ、その前日のライブに行っていたことを明らかにし、「aikoがなぜ最終公演で発表したのか。前の日に僕がいたからだと思います」とドヤ顔で述べたが、そこには何の説得力もなかった。しかし、この手の話は、他人を説得させる必要はなく、本人の中で話がまとまっていればいいのだから、ここでも放置を心がけた。今も昔も、彼が幸せならそれでいいと思っている。
「武田さん、僕、そしてaikoが共に成長していった」
cakesでの連載が最終回を迎えるにあたり、やっぱりもう一度登場してもらうしかない。これまでは年1回のペースで話を聞いてきたが、前回からまだ半年しか経っていない。なので、こちらから聞きたいことは何一つない。送られてきたURLをクリックしてZoomを開くと、前回に引き続き、選挙ポスターのような顔の圧だ。どうやら語りたいことがあるらしい。
編集者「連載、本当にお世話になりました。僕にとっても大切な連載で、武田さん、僕、そしてaikoが共に成長していったような、そんな気がします」
武田「いえ、そんな気はしません。ただ淡々と書いていただけですので」
編集者「実は今、とても感激しているんです。ああ、こういうことだったのか、と」
武田「唐突です」
編集者「この写真を見ていただけますか」
編集者は、パソコン上に1枚の写真を写し出した。どこかの川沿いで撮られた、編集者と2人の息子さんの3ショットだ。撮影したのはパートナーだろうか。背後の川の流れを見せるためか、左右にある程度の空きがある。いわゆる「幸せそうな写真」だが、こういう時の「そうな」って実は適当だよなと思いながら、「なんでしょうか、この幸せそうな写真は」と返すと、編集者が「ここで、もう一枚見てもらいたい画像があります」と言う。