最終回】10年愛用しているギャルソンのシャツをお直ししてください

ファッションブランドspoken word projectのデザイナー飛田正浩さんによるリメイクプロジェクト「sauce」。最終回となる今回は、飛田さんと親交のある建築家の光嶋裕介さんからご依頼いただいたシャツをリメイクしていきます。10年間の思い出が詰まったコムデギャルソンのシャツを、飛田さんはどのようにお直しするのでしょうか。
10年ほど前だろうか、
友人があのギャルソンで働くことになった。

その友人に勝手気ままに洋服を選んでもらおうと 青山のおしゃれなショップに足を踏み入れた。

僕は何も具体的には言わずに、ただただ彼のセンスに任せて、 「俺に似合うものを選んで」って無責任なオファーを出した。

すると、 彼が持ってきたのは、なんともシンプルなシャツだった。 最初に印象に残ったのは、その色。ライトブルー。

それは、僕が長らく生活していたベルリンの空(ヒンメル)を 思わせる透明感があった。

透き通るほどの青が開放的なベルリンの空を連想させた。

早速、試着してみた。 とても軽くて、初めて袖を通すのに、懐かしさがあった。 この独特なフィット感、悪くない。

友人も「うん、よく似合ってるね」と微笑んでいた。

内心もっと派手な、ギャルソンらしい、特別なデザインを想像していたが、 なんともオーソドックスでシンプルなシャツに拍子抜けした。

いや、でも、他者から見た俺のイメージ、 建築家のイメージって、これかもしれないと、妙に納得もしていた。

そして、人前に出る大切なイベントでは頻繁にこのシャツを着た。

着れば着るほどに、初対面の時の「懐かしさ」はより確かなものとして、

ギャルソンのシャツが自分の身体にしっくりきた。

洋服が「身にまとう建築」だとしたら、 その洋服と時間をかけて同化することが象徴として洋服を獲得することであり、

記憶を重ねることで洋服が生きられることなのである。

愛用していた僕の一張羅だが、不覚にもボタンの穴が破れてしまった。 飛田さんの手によってどのようにリメイクされるのか、楽しみで仕方ない。

光嶋裕介(建築家)

光嶋さま

こんにちは。 リメイク企画「sauce」にご参加いただきありがとうございます。 今回、光嶋さんからは複数のお洋服でsauceの依頼を受けました。その中から真っ先に僕が選んだのがこのギャルソンのシャツでした。

理由はシンプルだったからです。 「リメイク=色彩や素材を付け加える=加筆」 と考えるなら、もとの服はシンプルであればあるほど加筆の自由度は上がります。

もう一つの理由はこのシャツがほぼ光嶋さんそのものだと感じられたからです。 光嶋さんの生活や行動が染みついていることは言うまでもなく、そこから光嶋さんの思考回路まで垣間見えるような。

ここで今回のリメイク、そのデザインに至るまでの僕の思考過程をお話しします。

まず、光嶋さんが建築家であることを念頭に置いたとき、「正面」というキーワードが頭に浮かびました。 建築物に正面はあるのでしょうか? 「正面玄関」と言うくらいだから、玄関があるところに対峙すればそこが「正面」。

次に、ファッションデザイナーとして服の正面とはなにかを考えました。 カメラマンさんがモデルさんに「正面を向いて!」といえばモデルさんは体ごとこちらに向きます。 それが「正面」でしょう。 とりあえず。

では、建築及びファッションの「正面」の共通点はなにか。

それは、「中に入る」ところかと。

玄関を開けてその建築物の「中」に入ってゆく。
シャツのボタンを開けてその服の「中」に入ってゆく。

ではその「中」とは?

具体的にいえば個人の心=パーソナリティでしょうか。
その人自身の心と体と生活と。

建築でも服でもそこに内包されているものは「心」であると。 いい話です。 デザインする勇気と希望が湧きますね。

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sauce by spoken words project

飛田正浩

ファッションブランドspoken words projectのデザイナー飛田正浩さんによるリメイクプロジェクトです。読者の方からの依頼を受けて、「その服にまつわる思い出」とともに服をリメイク。そのリメイクにこめた想いやデザインのポイン...もっと読む

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