借りパク奇譚

すべてがつながってしまった #22

【前回までのあらすじ】これまでの「借りパク」を懺悔するために寺に集まった男女4人。奇妙な共通点が見えてくるなか次々と儀式は進み、主人公・竹中は、寺の住職・亮潤から信じがたい話を聞く。大学時代に本を借りパクして以降、酒を飲んで寝るたびにずっと時間を奪われていたというのだ。混乱しながら部屋を出るとクロエから「ちょっとお話いいでしょうか?」と呼び止められーーー。前回のお話はこちらからどうぞ。

「ええ、もちろん」

クールに返事をするも、おれは自分の胸の鼓動が大きくなっていくのを感じた。これは私服の彼女が、さっきまでにも増して魅力的に見えるからか? いや、違う。たぶん彼女がこれから話そうとしている何かに、おれは反応し、緊張しはじめている。

おれたちは少し歩き、待合室と塔の間、本堂の前あたりまでやってきた。

どうやら彼女はわざわざおれの『旅立ちの儀』が終わるのを待っていたようだった。おれがイケメンで、青春まっしぐらの中高生なら、まさか告白!? なんて、呑気に考えたかもしれない。

「ちゃんとご挨拶する機会もなく、私、本名、夏目といいます」

そう言って彼女は笑顔を浮かべる。

「ご丁寧に。私は竹中です」

「あっ、やっぱり。カンバルさんがリストで読み上げた、"たけなか たかし" って "たけし" さんのことだったんですね」

嬉しそうに微笑む夏目さん。バレていたのか。まあ、当然か。あの時おれは思わず立ち上がったから。

「ええ。困ったやつです。あいつは」

おれは苦笑する。

「……実は、『智慧の儀』の時に、言いそびれてしまった事があるんです」

そう言いながら、彼女は自分のハンドバックからブックカバーをつけた本を取り出す。

ふむ。見覚えがある。確か『懺悔の門』が始まる前、彼女が待合室で読んでいた本である。

次に彼女はブックカバーを外し、「見てください」と言って本を差し出した。

カバーを取り始めたあたりから、多少予想はしていたが、それでもびっくりする。表紙が濃い緑色の薄い文庫本。そのタイトルには、『地下街の人びと』と書いてあった。

これは一体どういうことなのか? おれは無言で考え込む。遠くで聞こえる鳥たちの声が、2人の間の沈黙を埋めていた。

「ちょうど3日前、タイトルに惹かれてこの本を買ったんです」

しばらくあって、彼女は言った。

「……なるほど。だからあの時反応したんですね。すごい偶然、いや……これは偶然という名の必然なのでしょうか」

彼女の場合は? とおれは思う。亮潤様と一体何を話したのだろうか。

「でも、そもそも私がこの本のタイトルに惹かれたのには、理由があるんです」

重要なのはここからです。彼女はそう言いたげだった。

「ええ」

「先ほど話した私のバイトの話ですが、私が雇われていた組織、その名前を『地下街の人びと』といったんです」

「……」

なんてことはない。組織の主催者が、たまたまケルアックを好きだった。それだけのことだろう。それ以上でもそれ以下でもない。しかし─────そもそも、あの小説に出てくる人びとは、なぜ、「地下街の人びと」と呼ばれていたんだっけ?─────おれは主題から逃げ、どうでもいいことを考える。何度目か、ひどく頭がクラクラするのは、絶対に酸欠のせいではない。

「先ほども言いましたが、私、文学には疎くて。だからその名前が、小説のタイトルからとってつけた名前だって知らなかったんです……」

「名前をつけた人がケルアックを好きだったのかな……」

自分でもつまらないこと言うものだと思いながらも、おれはそう口にする。

「ええ、そうかもしれません……ただ、もう一つ……『地下街の人びと』の代表を務めていた人物の名前なんですが……」

そこで彼女は一呼吸置いた。

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この連載について

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借りパク奇譚

宮藤宙太郎

この世にはびこる「借りパク」。それを懺悔し、みそぎができる寺があったら…? 今まで散々借りパクしてきたという悪友に巻き込まれる形で、みそぎに参加することになった主人公・竹中。そこに新たな2人の男女も加わり、奇妙な形で儀式が進んでいく。...もっと読む

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