借りパク奇譚

時間が奪われているだと? #20

【前回までのあらすじ】これまでの「借りパク」を懺悔するために寺に集まった男女4人は無事に禊を終え、最後の儀式に進む。その儀式は、寺の住職・亮潤と一対一で面談を行い、個々に説教を受けるというものだった。3番目に呼ばれた主人公・竹中は、『暁の間』に向かうのだがーー。前回のお話はこちらからどうぞ。

「本日はお休みのところ、ご苦労様でした。東京から3時間ですか。遠路遥々、ありがとうございます」

おれの『旅立ちの儀』は亮潤様のその言葉から始まった。はて、東京から来たこと、3時間かかったことなど話しただろうか? 山田か? いや、山田の面談はこの後だからそれはない。

「竹中さんから情報を抜きました。最近の記憶なので、簡単にそれができました」

おれの思考が早いか、亮潤はそう続けた。

「はあ……」

「コツさえ抑えればこういったことは誰にでもできます」

「……コツですか……」

「ええ、今やったことは比較的簡単な部類でしょうか」

少し微笑みが混じっているが、亮潤は真顔だった。

釈然としないまま、おれは微笑をつくる。

「多少なりとも信じていただくため、もう一つお付き合いいただけますか?」

おれが全く信用していないことを察してか、亮潤は続けた。

「はい」

「奥様の名前を頭に思い浮かべて下さい」

……そもそもおれは結婚しているなんて言ってない。金属アレルギーだから指輪もつけてない。既に引っかかるが、おれは言われた通り、我が細君の名前を頭の中に思い浮かべる。

「菜津穂さんですね」

間髪入れずいい当てる亮潤。

「ええ……」

なんとなく当てるだろうなと思ったから、そこまで驚かなかった。ただ、それでも亮潤の謎の力を信じたわけではなかった。そもそもおれは元来、手相も おみくじも風水も、前世 やソウルメイトやカルマも、天国 や 地獄 だって本気で信じていない。そういうことを言うやつは大概胡散臭いのだ。東京から来たことや、妻の名前など、その気になれば、いくらだって調べられることではないか。しかし……再び炎の周りを回っている時に見たあの風景がよみがえる。おれだけではない、山田も見たというあの風景。あれは一体何だったのか?……おれはなんと続けたらいいかわからず口籠った。

「ごもっともな反応かと思います。ただ、現代の常識、また科学と呼ばれているものはまだまだ万全ではない。科学は宇宙の仕組みの1パーセントも説明していないのも事実です」

「ええ、確かにそう思います」

それに関して異論はない。

「ぶしつけにすみませんでした。ただ、このあとの説明のために、竹中さんが敬遠している世界、科学的根拠が全くない世界のことを、少し身近に感じていただく必要があったんです」

「はあ」

「今回の『懺悔の門』はいささか特殊でした。単純な借りパクの禊ぎというわけではなかった。先ほどもいいました通り、参加者全員が非常に厄介なことに巻き込まれていました。そしてそれは、皆さんが悔しくも借りることになった『モノ』が影響しているんです」

急に空気が張り詰める。亮潤が次に、重大なことを言うであろうことがわかった。

「竹中さんは『文庫本』を借りました。そしてそれによって人から時間を奪われることになったんです」

「……どういうことでしょうか?」

話の意味が全く分からず、戸惑いながらおれは聞き返す。時間を奪われる? 時間奪いの話はクロエの話ではなかったか?

「そうです。クロエさんの話にあった時間奪いの話です。大学で新歓コンパに参加したあの日以来、竹中さんは時間を奪われ続けていたんです」

「……すみません、文庫を借りたことと、時間を奪われることの因果関係がよくわかりません」

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この連載について

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借りパク奇譚

宮藤宙太郎

この世にはびこる「借りパク」。それを懺悔し、みそぎができる寺があったら…? 今まで散々借りパクしてきたという悪友に巻き込まれる形で、みそぎに参加することになった主人公・竹中。そこに新たな2人の男女も加わり、奇妙な形で儀式が進んでいく。...もっと読む

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