借りパク奇譚

得体の知れない相手との面談 #19

【前回までのあらすじ】これまでの「借りパク」を懺悔するために寺に集まった男女4人。奇妙な共通点が見えてくるなか、寺の住職・亮潤に導かれるままいよいよ禊がはじまった。多種多様な木魚の音色が響き渡るなか、干支を叫びながら汗だくで炎の周りを走り回る4人。亮潤の合図とともに、禊は終わったのだがーー。前回のお話はこちらからどうぞ。

かつてこれほど旨い水を飲んだことがあっただろうか、いや、ない。ポチが用意してくれた寺の井戸から汲んできたという水は、間違いなく、生涯一の旨さだった。「何杯でもどうぞ」の言葉に甘えた『欲張りジャン』こと山田。3杯もお代わりした挙句、途中で激しくむせ、亮潤様が「おやおや」とたしなめる、まさに子供向けアニメのラストシーンのような瞬間が訪れる。

干支を連呼して炎の周りを回ることにどんな意味があったのかはわからない、ただ、今この瞬間を味わっているおれたちにとって、果たして意味なんてどうでもいいことのように思えた。体を包むなんとも清々しい感覚。例の儀式によって何か、根本的なデトックスが起こったのか、体が妙にスッキリと軽かった。

至高の水とポチお手製の塩飴での一服を終えると、奇想天外の『借りパク懺悔の門』も、いよいよ最終局面を迎えることとなった。懺悔の門、最後の儀式は『旅立ちの儀』と呼ばれるもので、参加者は亮潤様と一対一で面談を行い、個々に説教を受けるという。

「旅立ちの儀」の順番は亮潤様の指定により、クロエ、ボンネ、おれ、カンバルジャン(山田)の順となった。面談はそのまま『暁の間』で行われるということで、トップバッタークロエ以外は、先に着替えを済ませ、控室で待つ運びとなった。

「さっさと着替えてしまおうか、 "むせバルジャン" 」

暁の間から外へ出ると、おれは山田にそう声をかけた。

「そうだな、"たけし"」

と涼しい顔で返す山田。ぐぬぬ、山田の方もおれを「たけし」と呼んでやろうと目論んでいたようだ。

ボンネを加え、今度はおっさん3人で仲良く着替えを済ませる。奥さんに電話しに行ったボンネと別れ、おれと山田は最初の控室に戻った。

「ものすごかったな」

おれはそこで初めて今日の感想を漏らすも、山田は「ああ」と生返事をしたまま携帯をいじり始める。例のフィアンセに連絡だろうか? 仕方ないのでおれも暇つぶしに携帯で今日のニュースをチェックする。こんな山奥で通信できるのかと懐疑的だったが、意外に電波はバリバリだった。いつもの通りのありふれたニュースが並ぶ中、『早朝、若手のおっさんが車で拉致され、3万円を脅し取られた挙句、妙な儀式に参加』という大事件は、まだニュースになっていないようだった。

「亮潤様と一体何を話すんだろ?」

携帯での用事が一段落したのか、突然山田がつぶやく。

「ほー怖いのか? チキバルジャン。まあ借りパクしすぎのお前はたくさん怒られるだろうな」

「ああ、怖い。あの亮潤という坊さん、得体が知れない」

「……ほぉ」

意外にあっさり認められ拍子抜けする。どうしてか、山田の表情が硬い。やたらと神妙な顔つき。はてこの顔、どこかで見たことがある……あっ、あれだ! 寺へ来る道中、「黙っておれについてこい!」そう叫んだ時のあの顔と同じである。

「亮潤様の何が怖いんだい? ブルバルジャン」

「ブルってねえわ!……信じられないかもしれないけど、さっき炎の周りを回っている時、おれは起きているにもかかわらず、夢を見たんだよ。おれたちは外にいて、燃え盛る何十本ものやぐらの周りを見知らぬ大勢の人々と一緒に回ってた。みんな自分が創造した巨大な干支の動物を連れているんだが、いくつものやぐらが並ぶその中央の一角に亮潤様がいて、何か念仏を唱えていた。おれはなんともなしに亮潤様を見ていたんだけど、次の瞬間、亮潤様の人差し指の先から、さも立派な龍が現れた。優雅で美しく、けれど獰猛でとてつもなくデカい龍だった。龍はなんというか、完全とか、完璧とか、全能とか、とにかくそんなものを具現化したような存在だった。あの龍がその気になれば、世界の創造も破壊も一瞬でなしてしまう、そんな気がしたんだ」

頭に残っているイメージを追うようにして山田は喋る。驚いた……山田にもおれと同じ映像が見えていたというわけか? おれたちが見たのあれは夢か幻覚か。ただ、ふたりがそれを見たとなると、少なくとも勘違いではなさそうだ。今日の一連の謎の儀式といい、確かにあの人、亮潤様は得体が知れない。しかし妙だ、おれは亮潤様が動物を創造するシーンなど見ていない。いや、山田や他のみんなを見ていたから、単に気がつかなかっただけなのかも知れない。

「お前、虎にまたがってたよな?」

おれは言ってみる。

「お前!……何で知ってるんだよ……」

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この連載について

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借りパク奇譚

宮藤宙太郎

この世にはびこる「借りパク」。それを懺悔し、みそぎができる寺があったら…? 今まで散々借りパクしてきたという悪友に巻き込まれる形で、みそぎに参加することになった主人公・竹中。そこに新たな2人の男女も加わり、奇妙な形で儀式が進んでいく。...もっと読む

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