借りパク奇譚

懺悔のあとに始まった「奇妙な禊」 #17

【前回までのあらすじ】これまでの「借りパク」を懺悔するために寺に集まった男女4人。一見なんの繋がりもないように見えた彼らの懺悔だったが、皆の話を聞く中で次第に僅かな共通点が見えてくる。4人は静かに寺の住職・亮潤の説法に耳を傾け、無事に懺悔の儀式が終了したのであった。前回のお話はこちらからどうぞ。

「さて、皆様は無事、"懺悔の門" をくぐられました。皆様の周りの風景は一見今までとなんら変わらないように思えても、すでに大きく変わってきています。ただ、各人がそれをはっきりと意識するのは、もう少し後になるかもしれません」

風景? なんの例えなのか、また抽象的な表現をする亮潤様。ただ、少なくともおれたちは無事、懺悔の門を通り抜けることができたらしい。残念ながらそれは "借りパク王子 "、山田も例外ではないようだ。

「では、新しい道を歩んでいくため、これより『調和と創造の儀』に移っていきたいと思います。『調和と創造の儀』によって一般的な意味でのみそぎを果たすことができます」

禊。そうだ、確かに禊が必要だ。「懺悔」「説教」「禊」それでワンセットだろう。知らんけど。とはいえ一体何をするのだろうか? 禊とはよく耳にするものの、実際自分がやったことはない。そもそもおれに禊が必要か? そこで亮潤様の背後で燃え盛る炎が目に入り、ふと、この寺の正式名称を思い出す。『火理拍寺』もしかすると目の前でずっとことわりの拍を刻んでいるこの "火" が、何か関係するのだろうか?

「ポチ! トランプを」と亮潤様。

ズコッ

おれは座っているにも関わらず、ズッコケそうになる。 トランプとな? 亮潤様、『智慧の儀』であれほど威厳を示していたのに、『名与の儀』の再来でしょうか? せっかくみんなで円になったし、『大富豪』でもやっちゃお—! そんなノリじゃあるまいな。どうしてもふざけているように感じる亮潤様の言動に、おれは顔をひきつらせた。

「亮潤様、トランプなんか何に使うんですか?」

ボンネもさすがにびっくりしたのか、目をまるくして質問する。

「ババ抜きです」

ぷっ。

噴き出すのを堪え、鼻の上が痛くなる。

「バ・バ・抜・き・を?」

うろたえてたどたどしく復唱するボンネ。

「はい、トランプといえば "ババ抜き" です。ちなみにこれは未使用の新しいトランプです」

ポチから受け取ったトランプをマジシャンがお客さんにするようにかざす亮潤。

確かに手に持っている『BICYCLE』のトランプ、そのケースの入り口が未だスペード型のシールで閉じられている、しかし……。

『そのくだり必要ですか!? マジックじゃないのに! ババ抜きなのに!』

そうツッコめたら、どんなに楽だろう。

亮潤はそれからゆっくりとした動作でケースを開け、トランプを取り出すと、自分にだけ絵柄を見えるようにして2、3枚カードをよけ、ふー と深く息を吐いて一瞬 "ため" をつくったかと思うと、それから物凄いスピードカードを切り始めた。

シュシュシュシュ ダダダダダ ザザザザ シャシャシャシャシャ

その見事に洗練された手つきに圧倒されつつも、あまりにも一心不乱にカードを切るその姿に、参加者たちは若干引き気味である。呆然とするおれたちを置いてきぼりにして、亮潤はひとり突っ走る。

スチャチャチャ──── スチャチャチャ────チャチャチャチャ─── 速い、速い、速い!

スチャチャチャ──── はぁい!!!!

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この連載について

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借りパク奇譚

宮藤宙太郎

この世にはびこる「借りパク」。それを懺悔し、みそぎができる寺があったら…? 今まで散々借りパクしてきたという悪友に巻き込まれる形で、みそぎに参加することになった主人公・竹中。そこに新たな2人の男女も加わり、奇妙な形で儀式が進んでいく。...もっと読む

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