「さて、皆様は無事、"懺悔の門" をくぐられました。皆様の周りの風景は一見今までとなんら変わらないように思えても、すでに大きく変わってきています。ただ、各人がそれをはっきりと意識するのは、もう少し後になるかもしれません」
風景? なんの例えなのか、また抽象的な表現をする亮潤様。ただ、少なくともおれたちは無事、懺悔の門を通り抜けることができたらしい。残念ながらそれは "借りパク王子 "、山田も例外ではないようだ。
「では、新しい道を歩んでいくため、これより『調和と創造の儀』に移っていきたいと思います。『調和と創造の儀』によって一般的な意味での
禊。そうだ、確かに禊が必要だ。「懺悔」「説教」「禊」それでワンセットだろう。知らんけど。とはいえ一体何をするのだろうか? 禊とはよく耳にするものの、実際自分がやったことはない。そもそもおれに禊が必要か? そこで亮潤様の背後で燃え盛る炎が目に入り、ふと、この寺の正式名称を思い出す。『火理拍寺』もしかすると目の前でずっと
「ポチ! トランプを」と亮潤様。
ズコッ
おれは座っているにも関わらず、ズッコケそうになる。 トランプとな? 亮潤様、『智慧の儀』であれほど威厳を示していたのに、『名与の儀』の再来でしょうか? せっかくみんなで円になったし、『大富豪』でもやっちゃお——! そんなノリじゃあるまいな。どうしてもふざけているように感じる亮潤様の言動に、おれは顔をひきつらせた。
「亮潤様、トランプなんか何に使うんですか?」
ボンネもさすがにびっくりしたのか、目をまるくして質問する。
「ババ抜きです」
ぷっ。
噴き出すのを堪え、鼻の上が痛くなる。
「バ・バ・抜・き・を?」
うろたえてたどたどしく復唱するボンネ。
「はい、トランプといえば "ババ抜き" です。ちなみにこれは未使用の新しいトランプです」
ポチから受け取ったトランプをマジシャンがお客さんにするようにかざす亮潤。
確かに手に持っている『BICYCLE』のトランプ、そのケースの入り口が未だスペード型のシールで閉じられている、しかし……。
『そのくだり必要ですか!? マジックじゃないのに! ババ抜きなのに!』
そうツッコめたら、どんなに楽だろう。
亮潤はそれからゆっくりとした動作でケースを開け、トランプを取り出すと、自分にだけ絵柄を見えるようにして2、3枚カードをよけ、ふー と深く息を吐いて一瞬 "ため" をつくったかと思うと、それから物凄いスピードカードを切り始めた。
シュシュシュシュ ダダダダダ ザザザザ シャシャシャシャシャ
その見事に洗練された手つきに圧倒されつつも、あまりにも一心不乱にカードを切るその姿に、参加者たちは若干引き気味である。呆然とするおれたちを置いてきぼりにして、亮潤はひとり突っ走る。
スチャチャチャ──── スチャチャチャ────チャチャチャチャ─── 速い、速い、速い!
スチャチャチャ──── はぁい!!!!