借りパク奇譚

赤信号を回避するタイヤの謎 #15

【前回までのあらすじ】これまでの「借りパク」を懺悔するために寺に集まった男女4人。順番に罪の詳細が語られていくなか、最後のひとりであるクロエが告白を終える。すると参加者のひとりであるボンネが「実はクロエさんの話を聞いて、ちょっと思うところがあるんです」と語り始めーー。前回のお話はこちらからどうぞ。

極め付けは今の奥さんです。彼女と付き合い始めた頃、僕はまさに例のタイヤをつけた車に乗っていました。彼女との初デートの日、僕は彼女を車で迎えに行きました。ただ、彼女はどうしても僕の車に乗ろうとしないんです。「車が苦手なの?」と聞くと、そうではないと言います。そのあといくら理由を聞いてもずっと煮え切らない回答でした。正直何だよと思いました。初デートでお互いのことをまだ知らないし、多少気に入らなくても合わせてくれてもいいのにと。ただ、結局彼女はその日、僕の車に乗ってくれませんでした。

僕たちはそれから何度かデートを重ねました。デート自体は楽しく、ふたりの仲はどんどん深まっていきました。ただ、彼女はどうしても車でのデートには応じてくれませんでした。でも、僕は車が好きですし、どうしても彼女とドライブがしたかった。だから「どうしたら僕の車に乗ってくれる?」と聞いてみました。すると「今のタイヤを処分して、新しいタイヤに変えてくれたら」と言います。びっくりしました。僕は借りたタイヤについて、その不思議な現象について、一切彼女に話していませんでしたから。

「タイヤがどうしてダメなの⁉︎」僕は彼女に聞きました。「イヤな感じがするの、とてつもなく」と彼女は言います。それはとても感覚的な話で、彼女自身それをうまく説明できないようでした。霊感とかそういった種類のものなのかと思いますが、僕にはよく分かりません。ただ、タイヤのことを全く話していないのにそれを言い当てたことに、彼女の何かしらの能力に揺るぎない信憑性を感じました。

それでも僕はすぐにタイヤを処分しませんでした。タイヤが借り物だったこともありますし、多少の恐れはありましたが、赤信号で止まらないタイヤが便利なことに変わりはありません。その後も何度か彼女に説得されたものの、結局、処分することができなかったです。

ただ、そんなある時、彼女からしばらく自分の家で一緒に暮らして欲しいとお願いされました。何でも彼女の家の近所で頻繁に不審者が目撃されており、とても怖いのだと。僕も一人暮らしの彼女が心配でしたから、しばらくそうすることにしました。

暮らし始めて7日目、それは日曜日でした。昼間、突然警察から電話がかかってきたんです。要件を聞いて一気に血の気が引きました。今朝方、僕の車が炎上し大破したというのです。

僕は急いで彼女と一緒に現場の駐車場に駆けつけました。そこには変わり果てた僕の車がありました。車はほぼ全焼、例のタイヤは見る影もありませんでした。

これは後ほどわかったことですが、車は誰かに放火されたわけではなく、朝方、突然発火したらしいんです。付近の防犯カメラを確認したので、間違いないだろうと。では原因はなんなのか? 当時、警察にも色々聞かれました。しかし、結局それは謎のままでした。僕は煙草も吸わないし、発火性のものは車内になかった。火災があった時期は彼女の家で暮らしていたので、しばらく車には乗っていなかった。故障かというと、それも違う。車はちょっと前に車検に出したばかりでしたから。

当然、警察には話せませんでしたが、内心ではもしかしたらあのタイヤが……と考えていました。恐怖でした。タイヤの祟りというのでしょうか、タイミングが悪ければ僕は命を落としていたかも知れませんから。

あえてそれを避け来ましたが、火災からしばらく、少し精神的に落ち着いてから僕は思い切って彼女に事件の見解を聞いてみました。「これは、あのタイヤのせいだったんだろうか?」と。彼女はイエスともノーとも答えませんでした。ただ、これで良かったんだと思う、そう言いました。

今では僕はそれを確信しています。彼女がしばらく自分の家で暮らして欲しいと言ったのは、何かを察知し僕を守ろうとしての行動だったんだと」

沈黙が訪れる。

今や話はとんでもない方向に発展している。頭がクラクラするのは酸欠のせいだろうか。おれは『懺悔の門』の開始前からずっと踊り続けている炎をぼんやりと見つめた。あの炎に聞けば、少なくとも車が出火した原因については教えてくれるのだろうか?

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この連載について

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借りパク奇譚

宮藤宙太郎

この世にはびこる「借りパク」。それを懺悔し、みそぎができる寺があったら…? 今まで散々借りパクしてきたという悪友に巻き込まれる形で、みそぎに参加することになった主人公・竹中。そこに新たな2人の男女も加わり、奇妙な形で儀式が進んでいく。...もっと読む

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10ricedar “デートの日、彼女を車で迎えに行ったけど、その日一日車に乗ってくれなかった” えとーー、どうやってデートしたの?? 2ヶ月前 replyretweetfavorite