「マスターも1杯いかがですか?」の謎
いらっしゃいませ。
bar bossaへようこそ。
バーでよくお客様から「マスターも1杯いかがですか?」というの、見かけますよね。あれ、バーにあまり行かない人からするとよくわからない文化らしく、たまに質問をされます。なので今回は、それについて書いていきます。
下北沢に朝の7時までやっているとあるバーがありまして、そこって夕方の6時頃から飲み始めて延々はしごして4軒目くらいでベロベロに酔っ払ってからたどり着くお店でもあるんです。
僕は下北沢でバーテンダー修行をしていたので、お店が2時とか3時に終わると同僚とたまにそのお店に行っていました。あるとき、僕が働いていたバーの常連さんが、僕に「しんちゃん、あのバー俺もよく行くよ。一緒にいこうか」と誘われたので、その方と行ったんです。もうその方、僕がいた店の時点で4軒目で、これ以上お酒は全然飲めないんです。
それで、「こんばんは」ってそのバーに入って注文を終えたら、マスターが、「じゃあ俺もいただくね」ってその常連さんに言って、瓶ビールをポンッと開けて飲み始めました。まあお店側としては、朝の4時近くに全然飲めないのにお店に来られて、酔っ払いの会話を聞いてあげなければいけないので、だったら「お金があるお客さん」からお酒をおごってもらって、売り上げにしようということなのでしょう。でも、お店側の立場から考えると、「じゃあ俺もいただくね」って開けちゃうことにびっくりしました。
でもそのマスター、僕らのような「ちゃんと飲むお客」とか「あまりお金を持ってないお客」からは、そういう「自分へのお酒」は要求しないんです。僕と一緒に行った「お金があってもう飲めないお客」には、お店側から申請するんだなあと、すごく勉強になりました。
あるいは、高級クラブで働いている女性から聞いた話で、近所にビルを持っているお金持ちのおじいさんが、開店後すぐのまだお店が暇な時間に1人で来店するそうなんですね。でもそのおじいさん、体質的にお酒が一滴も飲めなくて、「温かいお茶」を注文するそうなんです。でも、そのクラブの店員全員に「好きなの飲んで良いよ」って言うそうで、1人でお茶しか飲んでないのに、お会計が10万とか20万とかすごい金額になるそうなんですね。
それでおじいさん、たまに自分の孫の話をしたり、あるいはホステスさんの悩みを聞いたり、時には再就職の紹介なんかもしてあげて、全然エッチなこととか言わないので、お店のみんなもそのおじいさんが大好きらしいんです。お店が忙しくなり始めると、「じゃあお会計」ってさっと帰るそうでして。カッコいいですよね。そういう老後。