散々記憶を堀りかえした結果、おれはもう一つ、借りパクした「レモン」を思い出した。
これまた大学時代の話である。友人の家、学部の友達男4人で飲んでいた。どいつもこいつも、やたらハイボールが好きな奴らだった。その日もおれたちは例のごとくハイペースで飲み続け、順調に氷とレモンと炭酸水、それから安いウィスキーを消費していった。
いつもに増してみんな飲んだのか、途中、とうとう
そして、今思い出しても愚かな考えなのだが、ジャンケンで負けたヤツが、隣の部屋の住人にレモンを借りに行こうと、いうことになったのだ。
誰かが言った「昔の日本は調味料とか貸し借りしてたろ」とおよそ説得力のない言葉に、「今度買って返せばいいじゃん、いいじゃん」と同意、まさしく、くそっぱらい(くそな酔っぱらい)達は納得し、いざジャンケン。見事に負けたおれは、えいやと隣の部屋を訪ねた。
隣の住人は、若く優しい、大人の男性だった。くそっぱらいの話をふんふん聞いてくれ、「ああ、あげるよ」となんと奇跡的に持っていたレモンを2つくれたのだ。おれは恐縮し、「後日必ず返します! ありがとうございます!」と何度もお礼を言って友人の部屋に戻った。
「お前は凄い! 勇者だ。レモンは明日、おれが買って返しておく」。部屋の住人「坂上」は、調子よくおれを讃えた。おれは誇らしい気分にさえなったものだ。しかし、後になって(それは社会人になって何年目かの、久しぶりに4人で集まった時の飲み会だった)坂上はその後、レモンを返していなかったことが判明した。飲み会の時とはテンションが違ったんだという坂上、まあわからんでもないが、結果おれが借りパクしたことになってしまったのだ。まあ、あのお兄さんは「あげる」と言ったわけで、正直これに関しても借りパクというと少し違う気はするが、この際仕方ない。
記述開始から30分、山田以外の全員はペンを置いていたが、依然あいつはカリカリカリカリ、一人筆記試験状態。あろうことか4枚目の紙に取り掛かっていた。
さらにそれから10分、開始から40分を少し過ぎたところで、ようやく山田がペンを置き、記入時間は終了となった。直前まで、全力疾走していた『ジュケバルジャン』。その顔にはやりきったぞ、という意味不明な満足感があふれていた。