「そろそろコンビニご飯も飽きてきたし、自炊でも始めようかな。でも、何から始めればいいんだろう……?」
心の中でそんなつぶやきをしている方、けっこういらっしゃるのではないでしょうか。
はじめまして、自炊料理家の山口祐加です。自炊する人を増やすために活動する自炊料理家®と名乗って、料理初心者さんや苦手だと思っている方に向けて買い物から調理、片付けまで教える「自炊レッスン」やレシピを作る仕事をしています。
外出自粛が長引く中、家でご飯を食べる機会は圧倒的に増えましたよね。人間は食べないと生きていけないので、買うか作るかして毎日食事を用意しなくてはなりません。
毎日の食事作りが大変だからコンビニや宅配食に頼ろうとなるわけですが、そうすると金銭面や栄養面で少しずつ不安が募っていく。
「じゃあ簡単でいいから自分で作ろうかな?」
この連載ではそう思っている方に向けて、ただ作って食べるだけでなく、自炊を続ける最大のコツである「どうやって自炊を楽しむのか」をキーワードに自炊のいろはを書いていきます。
ようこそ、楽しい自炊の世界へ。
自炊の楽しさにまだ気づいていないだけ?
今の社会では、コンビニにウーバーイーツ、ファストフードに冷凍食品など、「忙しい!」と声を上げる現代人に向けて便利でおいしいものはいくらでも手に入ります。
この記事を読んでいる方にも家で料理したのはいつか思い出せない、そもそもやったことがない人もいるはずです。
これから自炊を始める人がいざ自炊してみようと意気込んだとしても、調理道具や調味料などの初期投資がかかりますし、食材は1週間くらいのうちに使い切らなければなりません。
続くかわからないから、いっそ買ってしまおうか。そう思うのも自然なことだと思います。
または一度か二度、自炊をやってみたもののいまいち楽しさがわからない。楽しさを感じない家事は誰かに頼んでしまおう、と割り切れるのは現代社会のいいところかもしれません。歴史上今がいちばん「自炊しなくてもいい時代」だと思います。
でも、まだあなたが知らない自炊の楽しさがあるとしたら?
それに気づけてないとしたら、楽しい営みを誰かに渡してしまっているのかも?
というのも私は自炊が大好きです(当たり前か)。自分のストライクゾーンにぴったりはまる料理を、自分で作って、好きなだけ食べられる。食材を切ったり炒めたり、その作業自体も生きている感覚が実感できて楽しい。
一緒に食べてくれる相手がいるなら、きっとおいしいと喜んでもらえる。しかもほどほどに気を遣えば健康にもつながってくる。
こんなに楽しい営みを誰かに任せてしまうなんて、もったいない。「私がやりたい!」と心底思います。
あなたの周りにも、いつもおいしそうな料理を作っている人が一人くらいいるのではないでしょうか。きっとその人は自炊を楽しんでいるのだと私は思います。
自炊に対して義務感よりも、楽しさを見出しているからこそ、なんてことない料理でもその人が作ると「おいしそう」と感じる。楽しいから・面白いからやっている人は、誰かの承認や理由づけがなくとも勝手に自分でやってしまいます。
せっかく自炊をするなら、楽しんでやるに越したことはありません。私が感じている料理の楽しさは、例えばこんな感じです。
①料理に没頭すると気持ちがよい
まるでスポーツをしている時のような没入感があり、料理中には雑事や小さな不安が浮かんでこない。料理を作って、食べ終わる頃には何で悩んでいたのか忘れてしまうことも多々ある。
②匂いを嗅いだり、野菜に触れたりすると生きている実感が湧く
油にニンニクを入れ、しばらくするとジュクジュクと音を立てて香るニンニクが最高。すべすべした野菜に触れている時は家にいながら自然とたわむれている気分になる。
③火を扱ったり包丁を扱ったりと日常の中でも少しだけ非日常を味わえる
パソコンの画面から離れて、身体を使って何かを作ること自体が楽しい。
④今食べたい料理を好きなだけ食べられる
その日の私の気分に応じて、自分専用シェフ(私)が料理を作ってくれる。
⑤旬の食材で季節を感じられる
家にいながらも春夏秋冬が楽しめる。日本は特に四季があるので、季節の移ろいを感じられる。
⑥冷蔵庫の食材をテトリスのように組み立てて料理し、冷蔵庫がスッキリすると達成感がある
中途半端な食材を全部かき集めて、おいしい料理ができた時は爽快。
⑦国内外問わず様々な料理や調理法、調味料について知るのが楽しい
知らない料理や調理法、調味料は無限にある。興味を持ち出したらどこまでも突き詰められる。レシピがあれば海外に行かずとも、自らの手で現地の料理が作れる。
⑧人に料理を作ってあげると喜ばれる
自分で作った料理を食べてもらうとグッと距離感が近くなる。人と仲良くなる時の有効な手段だと思う。
⑨心を癒し、身体を労るセルフケアになる
自分が作った料理で、自分の身体を労ることができる。健やかに生きるために必要な、セルフケアだと思う。
⑩食べることから社会と繋がれる(環境問題などを考える入口になる)
一人一人の消費行動が積み重なり、社会を作る。例えば今日は100円多く払ってオーガニックの野菜を買ってみる。消費は、自分が作りたい未来への投票になることを実感できる。
詳しく挙げればもっと出てきますが、大きくは以上のようなことが自炊の楽しさです。
では具体的にどのように自炊を楽しめるようになるのかについて次はお話したいと思います。
料理に共通の正解はない。自分の好きな味を正解にしよう
まず、料理に正解はありません。
レシピ本などに載っているおいしそうな完成写真が正解のように思いますが、それはあくまでもその料理家さんの正解であって、全く同じものを作らなくてもいいのです。
といいますか、全く同じものは作れません。使っている食材も調味料も違いますし、こちらは素人であちらはプロです。家にプロの写真家はいませんから、同じような写真も撮れません。
だから完成写真と同じものができなくても、全く凹む必要はないのです。
ただ、私も料理家のはしくれとして、1〜2回はレシピ通りに作ってほしいと思います。それは、にんじんをこれくらいの厚さに切ったら何分で火が通る、などの感覚を身につけてほしいからです。
でも1〜2回作れば、もう少し野菜は多く入れたい、味付けはこってりさせたいと自分がよりおいしいと感じる味が見えてくるはずです。その時にはレシピからちょっと離れて、好きな味を作ればいいのです。
料理するプロセス自体を楽しめていれば、味付けがうまくいったか、おいしそうに盛り付けできたかは大きな問題ではありません。見た目がちょっと悪くても、自分がおいしいと思えたらそれが正解です。
また特に初心者さんに向けてのアドバイスですが、料理の楽しさを実感するためには最初にむずかしい料理に挑戦しないのも大事です。
例えば、これから登山に挑戦してみたいと思っている登山初心者がいるとします。その人がいきなり富士山に登り始めたらどうなるでしょうか。
体力が足りない、持ち物が揃っていないなどで大変なことになりかねません。登山初心者がやってみるべきは、高尾山でハイキングしたり、友達と一緒にキャンプに行ったりするなどの肩慣らしだと思います。
徐々に慣れてきたら登山に慣れた人と一緒に富士山へ行くのが安全な道筋です。
料理も同じで、最初からオムライスやハンバーグなどの材料や工程の多い料理に挑戦すると挫折しやすいのです。
それであれば、最初はブロッコリーを茹でて、マヨネーズで食べてみたり、ささみをゆっくり茹でてサラダチキンのようなものを作ってみたりなど、簡単なことから始めるのがおすすめです。 ただ切って茹でただけですがブロッコリーの色の変化や、ささみが柔らかく茹で上がることをじっくりと観察すれば、達成感やおいしさを感じられるはずです。
さらにもう一品欲しいのであれば、買ってきたお惣菜を加えたっていいし、一皿で満足なのであれば献立に縛られず今日はこれでおしまい!と割り切って全く構いません。
さてここまで読んでみて、なんとなく楽しい雰囲気は感じていただけたでしょうか?
家に帰ってきたら、リラックスして、鼻歌でも歌いながら自分のために料理を作る。黙々と切る作業に没頭したり、ジュージューと焼ける肉の香りを嗅いだりするうちに、もやもやした頭がすっきりと晴れていくような感覚になると思います。
小さな達成感を感じながら自分の好きな味をほおばり、お腹がじんわりと温まる。「今ここに生きている」と思わせてくれるのが自炊のいいところです。
まず、好きな野菜を茹でたり焼いたりして、シンプルな味付けで食べるところから始めてみてください。毎日でなくても、ゆっくりと続けていくことで自炊の楽しさがきっと見えてきますよ。
誰でも簡単に作れてとても美味しい!
鶏のおろし煮
材料:作りやすい分量
鶏もも肉 1枚(約300g、カット済みのものでもOK)
大根 1/5本(約200g)
醤油 大さじ1と1/2
酒 大さじ2
作り方:
1.鶏肉はひと口大に切る。
大根はすりおろす。
2.鍋に鶏肉と大根おろしを水分ごと入れ、醤油と酒を入れてふたをし、弱火で10〜12分、火が通るまで蒸し煮にする。
アレンジ:
鶏肉を豚肉に変えたり、大根の代わりに玉ねぎおろし、かぶおろしなどで作ってもおいしい。
第1回のまとめ
・自炊を続ける最大のコツは料理を楽しむこと
・料理を楽しむには、自分の好きな味を正解とすること
・自炊初心者はかんたんな料理から始めた方が、楽しさを実感しやすい
この連載をもとにしたスマート新書が5月23日に発売されます。
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目次
第1章 自炊を続けられている人は何がちがう?
第2章 少ない食材でシンプルにおいしい料理を作る秘訣
第3章 基本の調理法を押さえて、自由に料理しよう
第4章 自分好みに自由に味付けできるようになるには?
第5章 自炊ビギナーにおすすめな「ゆる献立」
第6章 「料理したくなる環境」の整えかた
第7章 自炊あるあるの悩みに答えます
第8章 料理をより楽しく感じさせる、4つのアクション
お金のことを語るのは、なんとなくカッコ悪いかも?という世の中の風向きを、
ケロッと変えていく投資情報メディア、日興フロッギー。