ハト部

前編】羽賀翔一×柿内芳文 週刊連載マンガ『ハト部』完走記念対談

cakesで2021年3月まで連載していた羽賀翔一さんのマンガ『ハト部』。締切を破りがちな羽賀さんに対して「3回休んだら即打ち切り」という無茶振り条件を掲げながら、毎週掲載で一度も休むことなく走り切った羽賀さん。12/22の『ハト部』(上・下 / 双葉社)発売を記念して、連載直後に行った担当編集者の柿内芳文さんとの完走記念イベントトークを記事にしました。(提供:株式会社コルク)



【本対談は、2021年3月19日にクラブハウスで行われたトークイベントを元にしています】


自分らしいマンガを描くために

志村(noteディレクター) 羽賀さん、一年間の週刊連載お疲れ様でした。

羽賀翔一(以下、羽賀) ありがとうございます。先週連載を終えて、一年ぶりにハト部を描かない時間だったので変な感じがしますね。

柿内芳文(以下、柿内) えっ? 羽賀さん、まさか今週、最終話の続きの第53話を描いてないんですか?!

羽賀 ヒヤッとしますよ(笑)。

志村 (笑)。週刊連載の生活リズムができていたと思うのですが、この一週間はリズムが変わりましたか?

羽賀 そうですね。原稿のストックがゼロになってからは、土日にネームができてなくてヤバいって状態が続いていたので、久しぶりにそのヤバさがない週末でした。

柿内 最後のあたりは本当にギリギリで、作画が終わった瞬間にアップして掲載という感じでしたね。

志村 ハト部の連載が始まった経緯を、先にお話ししたほうがいいですよね。

柿内 そうですね。羽賀さんに、ハト部のスタートについて聞いてみましょう。

羽賀 はい。柿内さんとは『漫画 君たちはどう生きるか』を一緒に作ったのですが、出版された後は、2年くらいお会いして話す機会がありませんでした。
出版後の僕は、本がすごく売れたことで「次もすごいのを作らないと」っていう気持ちが強くなっていて世の中にリリースする作品が全く描けていない状況でした。もともとマンガを描くことへの想いが強くて力みがちだったのが、ますます肩に力が入ってしまっていたんですよね。 そんなとき柿内さんと街中でばったり会ってお話しする中で、『今日のコルク』みたいなマンガをまた描きませんかって提案していただいたんです。

志村 『今日のコルク』は、コルク社員の日常を描いた1ページマンガですよね。

(『今日のコルク』より)

羽賀 そうです。コルクのオフィスであった些細な出来事をマンガの練習として描いていただけなんですけど、そういうマンガこそが僕の持ち味だと柿内さんに言われて。 でも、今日のコルクをまた描いても内輪の話で、間口の狭い作品になるよねって話してた時に、『ハト部』というアイデアがあって、それを描こうということになりました。

柿内 今の話を、僕目線から話しますね。『漫画 君たちはどう生きるか』が出版された後、僕は独立してコルクを離れました。羽賀さんの次の作品をずっと待っていたけど、一向に発表されない。『漫画 君たちはどう生きるか』は200万部以上売れていて、多くの人が羽賀さんの絵に触れている。マンガ家としてこんなゴールデンタイムはないのに、なんで描かないんだ? 描けないんだ? ありえない!! ってずっと思っていて。2年も作品が出てこないことに、僕は強い危機感を持っていました。今だから言うんですけど、漫画家・羽賀翔一にとっては『漫画 君たちはどう生きるか』をやらないほうがよかったんじゃないかって思うくらいに。

羽賀さんは、すごいものを描かなきゃっていうプレッシャーで描けなかったって言ってましたけど、僕の目線から言うと、売れる作品を作ったことで、もう満足して描く気力がなくなってしまったんじゃないかって思ったりもしましたね。

もともと羽賀さんは悩んで描けなくなる気質だったんですが、「君たち」を描いてるときも、たびたび描けなくなることがあって。そのとき、マンガ家の三田紀房さんに2人で会いに行ったんですよね。僕がまだコルクにいて、三田さんの担当編集をしていた頃に。

羽賀 行きましたね。

柿内 三田さんって、マンガを描くことに悩まないんですよ。たいていの人は、ネームを作るときから散々アイデアに悩むけど、三田さんは一切悩まない。悩まないから、週刊連載を2本同時に描くなんて離れ業を続けることができる。その秘訣を、羽賀さんと聞きに行ったんです。

羽賀 ものすごく勉強になりましたね。その時に教えてもらったことをざっくり説明すると、三田さんは、身のまわりで見聞きする小ネタをキャッチして、マンガにしてリリースするだけ。「マンガとはキャッチ&リリースである」とおっしゃっていました。あとは、ネタを入れたら自動的にマンガとなって出てくるような、自分なりの「型」を持て、と。そうしたら、うじうじアイデアに悩むことなんてなく、マンガを量産できるとおっしゃるんです。

柿内 そう。キャッチ&リリースに、型を持てという話に、ネタをマンガにして即換金せよ!といった漫画哲学とか、そのあたりの三田流マンガ論を学びたい人は、ぜひ『徹夜しないで人の2倍仕事をする技術』を読んでみてください。電子書籍限定で、値段はたった300円! こんな費用対効果の高い本はありませんよ。僕が編集してるので、宣伝ですね(笑)。

徹夜しないで人の2倍仕事をする技術

羽賀 ふふっ(苦笑)。

柿内 とにかく羽賀さんは、オリジナルなこと、壮大なことをやろうとするから、悩んで描けない。だったらまずは自分のアイデアではなく、人のアイデアを使って描けばいいと思ったんです。『ハト部』のアイデアは、三田さんに相談しに行ったときに、三田さんが「自分は短編なら毎日でも描くことができる。アイデアに困ることなんてない。たとえば今日作画しながら聴いていたラジオでこんな話題があって……」と話してくれたことが元になっています。ラジオ番組で高校の部活動紹介があって、伝書鳩の部活が出ていたらしいんです。三田さんはそれを聴いた瞬間に、「あ、これはネタになるな」と脳内でマンガが一本できあがっているんですよ。まさにキャッチ&リリース。

羽賀 柿内さんに提案された時は、ファンタジーみたいな大きな物語を描きたい気持ちが強くて、学園ものを描くイメージがすぐにはできませんでした。 だけど、僕もこのままじゃまずいなって感じていたので、一回自分をほぐそうと思って。型を作りながら、高校の教室で先生をいじって描いたマンガを友達に回し読みしてもらうような感覚で、三田さんのアイデアであるハト部を描き始めてみました。


日常を観察と拡張でおもしろくする

志村 型をつくったことで、制作のリズムは上手く作れましたか?

羽賀 いやぁ。すらすらとは描けなかったです(笑)。それでも、ハト部らしさってなんだろうって、ちゃんと立ち返りながら描くことができた作品ではあるなと思っています。

だんだん悩んでくると、話をおもしろくするためにちょっと突飛なことをしようと考えがちなんですが、そうすると柿内さんから「これはハト部っぽくないです」「羽賀さんらしくもない」ってフィードバックが返ってくるんですよ。

柿内 羽賀さんの良さが出ることをハト部連載中はずっと大事にしていましたね。

『今日のコルク』で描かれているのは、誰もが3分後には忘れてしまっているような日常の一コマです。だけど、羽賀さんがその光景を見て、マンガにすると、クスッと笑えるおもしろい非日常の一コマになっている。この観察力はすごいなと思いました。

『ハト部』は『今日のコルク』と同じように、羽賀さんがなんでもない日常の一コマを観察し、拡張することで、無限に話が作れる「型」になっています。観察する対象は、目の前の光景ではなく、高校時代の記憶ですけれどね。最寄駅から学校までの道のりであったこととか、下駄箱で起きた出来事とか、学校生活の全てのシーンがマンガのネタになりますよ。羽賀さんの目だったら、そこにあるおもしろさを絶対見極められるから、それをただ描けばいいと思っていました。

羽賀 高校時代のことをずっと思い出しながら、描いていましたね。

柿内 でも、そういった「観察」よりも、締切に追われ物語を動かすことで頭がいっぱいになってしまうと、徐々に作者の作為が入ってくるんです。無理やり物語を動かそうとしているというか。

そんな、滲み出る作者都合を感じたときに、「ハト部っぽくない」と伝えていました。作品を読んでいて一番冷める瞬間って、作り手の作為を感じた時じゃないですか。読者にとってハト部を読んでいる時には、羽賀翔一の存在は消えてなくならないといけないんですよ。

志村 なるほど、なるほど。しかし後半は、生徒総会に向かって物語が大きく動いていきますよね。そこはどんなふうに、ハト部らしさとストーリーとの整合性を取っていったんですか?

羽賀 そうですねぇ。なんでしょう。柿内さんが言われたように、僕が無理に話を動かして読者が冷めてしまわないように、「ハト部っぽくないじゃん」という減点を減らしていったというか。大事件とか大爆笑はハト部らしくないですよね。

最終回も、最初はちょっと綺麗にまとめた終わり方を描いていたけど、そうじゃないなって。52話で完結した後も、その続きを読者が勝手に想像できるような終わりにしようって思いました。最後に「ええっ!」ってことが起こっても、それがハト部らしければいいというふうに、自分の思考を切り替えました。

志村 たしかに最終回を読んでも終わったという感じがなくて、「あれ? 今週は更新ないんだっけ」という気持ちになりました。

羽賀 そうなんですよね。なんか「え—?」って最初は思うんだけど、時間が経つと意外としっくりきましたっていう感想をもらっていて、安心しています(笑)。

志村 個人的にも驚きのラストでしたが、タカハシって、最初から最後までいいやつだったなって思ったんですよね。途中から存在感も増してきましたよね。

羽賀 ただ窓からのぞいているだけのキャラクターで、メインにする予定は全くなかったんですけど、要所要所出てくるようになっていましたね。

改めて考えると、タカハシって、サッカー部なんだけど無理して所属しているし、かといってハト部にも入れなくて。二つの居場所を行ったり来たりしているんです。そんなふうに揺れ動いている人って、物語が動くときになにか関わってくる。 林くんの揺れ動きとは違う二人が絡み合ったときに、おもしろいことが起るんだろうなって感じました。 これからもマンガを作るときに、心の揺れ動きを気にしながらキャラクターを作れるかなって思いましたね。

志村 タカハシがいなければ、ハト部はなくなっていたわけですからね。

羽賀 そうなんですよ(笑)。ハト部が廃部になって一番困るのは、タカハシだったんですよね。

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ハト部(上)(下)好評発売中!

ハト部(上)

羽賀 翔一
双葉社
2021-12-22

この連載について

初回を読む
ハト部

羽賀翔一

イケてるわけでは絶対ない。でもスクールカースト最底辺ってわけじゃない。ぱっとしない僕たちだけど、毎日、ほんの小さなことにも一生懸命なんだ……! 名前以外いっさいの不明の部活動「ハト部」。その部室を中心に巻きおこる、小規模どたばたスクー...もっと読む

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