エレクトロニクス・やる気・ロシアコスミズム

年内最後の「新・山形月報!」。取り上げるのは、『ギャル電とつくる! バイブステンアゲサイバーパンク光り物電子工作』、藤原麻里菜『無駄なマシーンを発明しよう!』『無駄なことを続けるために』、ルスタム・カーツ『ソヴィエト・ファンタスチカの歴史』などを解説。2022年のやる気にもつながる内容です!

前回、技術っぽい本をいくつか紹介したので、今回はもう少し別の方面を……と思っていたところに、ある意味で似たような方面を攻める本が2冊続けて出ましたので、触れないわけにはいかない。

一つが『ギャル電とつくる! バイブステンアゲ サイバーパンク光り物電子工作』(オーム社)。え、オーム社だったの??!! これは、もう表紙見たまんまで、派手なおねーさん2人(電子工作ギャルユニットを名乗っている)が電子工作をイロハから教えてくれるという本。もう、本当にLEDってどんなものかや配線図ってなあに、というレベルから始まって、部品を買うお店の紹介、ハンダ付けのやりかた、作ってみたあとのトラブル解決方法、さらにとりあえず光らせる段階から、マイクロコントローラーを入れてセンサーで周囲に反応しつつ光るアクセサリーづくりまで、素人のつまずきそうなポイントをきっちり押さえつつ、ていねいに教えてくれる。


ギャル電とつくる! バイブステンアゲサイバーパンク光り物電子工作

そして、入門エレクトロニクス解説書がハマりがちな落とし穴からもうまく逃れている。類書でときどきつらいのが、製作例として出ているモノがしばしば、別につくりたいと思えないというか、この回路を無理に使わないといけないのでこんなでもやってみますか、となっていること。雨だれ音発生器とかさ。それだと小学校でやらされる計算問題と同じく、「なんでこんなことしなきゃいけないのか?」と嫌々手を動かす感じになりかねない。まして、計算問題とちがって電子工作は部品代もかかるしね。

でも、本書は「とにかく光って派手なものつくるぜ!」という目的意識がとても明解。「これを作りたいがために、手を動かしているんだな!」とわかりやすく実感できる。技術なんてしょせん、何かを実現するためのものだ。本書はその目的意識が貫徹していてすばらしい。さらに実用重視なので、外で壊れたときのトラブルシューティングまでカバー。最後は光らせ方をコントロールする、Arduino向けのプログラミングにまで踏み込んでいて、至れり尽くせり。

さらに電子工作初心者への配慮にとどまらず、本文中に乱舞するギャル用語に困惑するジジババ向けに、用語解説では「バイブス」「激おこぷんぷん丸」「秒で」などの難解な概念もしっかり説明されているので、とても勉強になりますです。ちなみに「オタクに優しいギャル」は都市伝説だそうで、みなさん変な期待は禁物。あと、パンサーモダンズ、出てきたかなあ…… というわけで、かゆいところに手が届く、とても親切な1冊。見ているだけで楽しいので是非!

そして同時期に出たもう一つのすごい本が、藤原麻里菜(著)、登尾徳誠(監修)『無駄なマシーンを発明しよう! 独創性を育むはじめてのエンジニアリング』(技術評論社)。さっきのギャル電本で、何をつくりたいかという目的意識が明確でないと、いまいち製作意欲が出ないことを書いた。この本に紹介されている作品は「無駄なものをつくる」という目的意識がきわめて明確で、まず素敵。それがもう一つの製作意欲の敵である「こんなもの、つくっても仕方ないのでは」「こんな思いつきのやっつけでいいのか/もっときちんとやるべきでは」を撃退してくれるのがさらに嬉しい。


無駄なマシーンを発明しよう! ~独創性を育むはじめてのエンジニアリング


たぶん、ギャル電本の場合、そこに書かれたものをそのまま作ってみようかな〜、という読者はそこそこいるんじゃないかとは思う。これに対して、『無駄なマシーンを発明しよう』では、載っているものをそのままつくろうとする人は、そんなにいないはず。それぞれは、ほとんどその場の思いつきが発想のもとで、本書はそれを形にするプロセスを細かく説明してくれるけれど、その作り方も(おそらくはかなり意図的に)ゆるくてあまり洗練されていないものになっている。でも、まさにそれが個々の作品に言わば瞬間芸めいた即席感を与えるものになって、おもしろさを生み出している。瞬間芸をコピーしても、あまり意味はないよね。 そして、そのアイデアから作品までのプロセスの、洗練されなさ加減はすべて、「ああ、こんなものでもつくっていいんだ」「こんないい加減でもかまわないんだ」という勇気を与えてくれる。

同時に、そのいい加減に見える作り方でもちゃんとノウハウがあるのだ、ということも教えてくれる。100円ショップのちょっとした商品の分解で「へえ、こんな単純な仕組みでここまでできるのか」と学び、電子部品の使われ方を理解して、それをいじって自分の用途に改変するという、エンジニアリングのお作法の基本まで教えてもらえるというすごさ。

これに感心して、同じ藤原が少し前に出した『無駄なことを続けるために ほどほどに暮らせる稼ぎ方』(ヨシモトブックス)も読んだんだけれど、こちらもすばらしかった。 ときどき彼女の作品を目にするだけだと、適当に思いつきで、のほほんとくだらない(褒め言葉です)ものをつくってウケを取っているだけ、という印象を抱くのだけれど、本書を読むとまったくそんなお気楽なものではないことがわかる。彼女は、セルフプロデュースの手段としてこのニッチを自ら見つけ出し、それを売り込むための手法をあれこれ実践し、情報発信のノウハウを確立し、そしてその世界での自分の信頼性を構築してある程度の商業性を獲得するための方法論まで編み出す。ちゃんとPDSCサイクル(あれ、PDCSだったっけな?どうでもいいけど)まわせってことだよねー。いやはや、そこらのビジネス書よりずっと勉強になります。

これらの本を読むと、必ずやる気が出てくると思うんだ。何か作ろう。何か手を動かそう。見て、わかった気分になっているのではなく、実際につくるなりして、その結果を自分なりに咀嚼してみよう。卑近な話で恐縮だけれど、これらの本を読んだ次の週あたりから、ぼくもずっと先送りにしていた、家の照明器具のLED化や陥没していたコンセントの修理、鍵の交換に一気に取りかかった。たぶん自分も何かやらないといけないと心に感じたせいだと思う。どれも、読むと何かしら背中を押してくれるはず。どっちの方向に押されるかは、それはもうあなた次第。寒くなったし、コロナおこもりもあって、いろいろおっくうになっているあなた! あまり好きな表現ではないけれど、これらの本を読んで、本当の意味で元気をもらってください。

さて、ここでやめてもいいんだが、元気をもらった勢いで、他にたまっていた本も読み始めてしまったので、勢いでもう1冊。ルスタム・カーツ『ソヴィエト・ファンタスチカの歴史』(共和国)。これは……とにかく変な本。ソ連SF史の概説書かと思ってしばらく前に買って寝かせてあったんだが、配線施工で壁に穴を開けるために本棚を整理していたら出てきた。

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新・山形月報!

山形浩生

経済、文学、コンピュータなどの多方面で八面六臂の活躍をする山形浩生さん。その山形さんが月に一度、読んだ本、気になる現象について読者にお届けする密度の濃いレポートです。

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