※この記事の情報は、『週刊東洋経済』2019年12月2日発売当時のものです。
「宗教文化を学ぶことは、日本のビジネスパーソンにとって欠かせないリスク管理だ」
そう語るのは国学院大学名誉教授で宗教情報リサーチセンター長の井上順孝氏。今や日本のビジネスパーソンは外国人との取引が日常化している。日本に来る外国人は増え、アジアやアフリカなど出身地域も多様化している。宗教への理解が不十分だと、ビジネスで思わぬ損失を出しかねない。
例えば、イスラム教徒の多いインドネシアで豚の酵素を使った食品を製造・販売し、生産停止や商品回収に追い込まれたケース(イスラム教徒は豚肉を食べてはならない)や、ゲームソフトで、イスラム教の聖典コーランの表現が含まれていたために、冒瀆と受け取られる可能性があるとして、発売が延期になり当該部分の修正を迫られたケースがある。
また最近は、外国人の部下を持つ日本人ビジネスパーソンも増えている。宗教をよく理解していないとコミュニケーションがうまくいかず、成果を出せなかったり、辞められたりしてしまう。
例えばヒンドゥー教徒は牛を聖なる動物と考えているため、一部の例外を除くと決して牛肉は食べない。にもかかわらずよかれと思って歓迎会などでステーキ店に行くと逆効果だ。イスラム教徒の女性の多くは、家族以外の男性のいるところでは髪をベールで覆うため、「社内ではベールを取るように」と注意すると問題になる。
このように宗教を背景とした文化の違いへの理解は容易ではない。ベールなども、人によって厳密さが異なっていたりする。現実的な方法としては「ある程度の基礎的な知識を身に付けたうえで、本人に個別に聞いて対応することが大切だ」(井上氏)。