パンデミックが新たにした人や世界とのつながり方

パンデミックで人が以前よりも他人とのつながりに飢えているように感じるというアメリカ在住の作家・渡辺由佳里さん。これまで話しかけられることのなかった場所で、話しかけられることも増えたといいます。ただ、その中には自分とは価値観や考えの異なる人もいて…。パンデミックが変えた人や世界とのつながり方について考えます。

新型コロナによるパンデミックは、私たちの生活を否応なしに変えた。友人だけでなく、家族であっても一緒に住んでいない者とは容易に会えない生活が長く続いている。ワクチンが開発されて接種した者同士で会うことができるようになったが、アメリカでは先のコラムで書いたような状況があってなかなかパンデミック前の生活には戻ることができない。でも、各地で自宅待機やロックダウンが始まった2020年3月から1年と7ヶ月の間に、多くの人はこの状況に適応して新しい日常を作り上げているようだ。悪いことばかりが目立つので、今日はポジティブな変化について書こうと思う。


パンデミックで起こった日常の変化

パンデミックが始まってから意外なモノが全米で売り切れになるようになった。そのひとつは「メイソンジャー」である。私は毎年ナンタケット島の野生のぶどうを収穫してナンタケット・グレープ・ジェリー(実を濾しているジャムをアメリカではジェリーと呼ぶ)を作っているのだが、18ヶ月常温保存できる処置をする必需品がメイソンジャーなのだ。


ナンタケット・グレープは、コンコードグレープの祖先として知られる野生のぶどう。独自の強い香りが魅力。毎年9月頃に引っかき傷だらけになって収穫


葉っぱや茎、虫がついたぶどうなどを取り除いて洗ってから潰して煮込む。


煮た汁を濾して砂糖とペクチンを加えて煮込み、それを煮沸したメイソンジャーに入れてからさらに煮沸。常温で18ヶ月安全に保存できるようにするためには正しい手法に従うのが重要。


常温でも18ヶ月保存できる方法を使っているが、私は冷蔵庫で保存している。このガラスの容器がメイソンジャー。

ジャムやピクルスを作っている人の間では、ガラス容器と完璧に密封できる蓋の品質において信頼できるBallというメーカーの製品を使うのが常識になっている。ふだんの年ならBallのメイソンジャーはスーパーに山積みされているので、収穫の季節になってから必要なだけ買えばよかった。ところが2020年はどこの店でも在庫切れで、アマゾンで購入しようとしたら通常は1ケース(12個入)13ドル程度のものが36ドルもして驚愕した。その理由を調べてみたら、パンデミックを機に多くの人が家庭菜園の趣味を始め、野菜をピクルスなどで保存するようになったかららしい。ジャムを作る人も増えたので突然メイソンジャーの需要が増えて製造が追いつかなくなったらしい。

私の凡庸な日常生活で目撃した変化はメイソンジャーだけではない。過去20年毎日のようにジョギングやウォーキングで通っている近所の森にも大きな変化が起こった。

この森は、20年前にはアメリカ人の友人が「悪い人が隠れていて襲われるかもしれないから一人で行くのはやめなさい」と忠告するくらい人が足を踏み入れない場所だった。その後ボーイスカウトやマウンテンバイクの愛好家がボランティア活動で湿地に木製の遊歩道を作ったり、新しいトレイルを作ったりして利用する人が増えてきた。

口コミでマウンテンバイク愛好家が他の町や近隣の州からも来るようになったが、それでも私が早朝ジョギングをしている1時間30分くらいの間にすれ違うのは常連2〜3人で誰とも会わない日も珍しくはなかった。

ところが、パンデミックになってからこの森の利用者が急増した。週末の土曜と日曜はよそから訪問する人たちの車で森の入り口の駐車スペースはすぐにいっぱいになり、溢れた車が近所の道にずらりと並ぶ。マウンテンバイクでは友達グループや愛好家グループが一緒に楽しんでいるようで、駐車スペースはまるでイベント会場のような賑やかさだ。屋内での会合には多くの制限があるが、屋外ではマスク着用やソーシャルディスタンスの制限が解除されている。仲間と自由につながることができる森は魅力的な社交の場になったのだ。

ネットの世界での情熱的な人とのつながり

パンデミックで人が以前よりも他人とのつながりに飢えるようになっていることも感じる。「パンデミックで始めた新しい趣味」と「他人とのつながりへの飢え」という2つの現象が重なっているのを感じるのが、キノコ狩り愛好者のフェイスブックグループだ。

私は若い頃からキノコの観察が好きで、20代の頃にスイスでキノコ狩りに行ったり、キノコの本を買ったりしていた。何年も前から早朝ジョギング中にみかけたキノコの写真を撮って #今日のキノコ というツイートもしていた。パンデミックをきっかけにこれらのキノコについてもっと詳しく知りたくなった。本を購入して読んだのだが、写真だけでは判断ができない。それにキノコは育つ環境によってかなり姿も性質も異なる。スイスでキノコ狩りをしたときに、故郷でよく食べていた安全なキノコだと思って毒キノコを食べて亡くなる移民が多いと聞いていた。そこで、もっと詳しく学ぶためにキノコの識別をするローカルなフェイスブックグループにいくつか加入してみた。


パンデミックになってから私が買った森と植物、キノコに関する本

これらのグループでも感じるのは、「他人と繋がることへの飢え」だ。最初は「知識を増やしたいだけで、食べることには興味がない」と宣言していた私だが、人懐っこくて教えるのが大好きなグループのメンバーのおかげで本では得られない知識を身につけ、励まされていくうちに100%識別できる舞茸などを収穫して食べるようになってしまった。

まったくの素人に対してでも「それは食べられないキノコだよ」と優しく教える人も多く、収穫自慢の写真にも「すごい収穫!」「羨ましい!」「きれいなキノコ!」といった褒め言葉が並ぶ。私も、先日念願のアメリカン・マツタケ(北米の東北部のみに分布するTricholoma magnivelare)を見つけることに成功し、グループに松茸ご飯の写真を披露してアメリカ人のメンバーに羨ましがられた。


ニューハンプシャー州のホワイトマウンテンの森でみつけたアメリカン・マツタケ。半分地面に埋もれているこの松茸に出会うまでにかなり宿題をした。

たかがキノコだが、リアルの世界でなかなか人と会えない人々が、ネットの世界で情熱的に繋がるすばらしいテーマである。キノコ採集のベテランで素人に教えるのが上手な人は、グループの初心者から感謝され、尊敬される。ベテランではなくても、美味しそうなキノコ料理を投稿した人には「美味しそう」という褒め言葉がかかる。その様子を見ていると、ネットであれ自分が存在していることの価値を誰かが認めてくれるというのは重要なのだと感じる。自分の知識を見せびらかす人もいるが、それよりも褒め言葉をよくかける人のほうが好かれているところもある。褒め言葉や励ましをする人たちは、ある意味社会貢献をしているのだとも感じる。

パンデミック下の森で生まれた人とのつながり
この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

この連載について

初回を読む
アメリカはいつも夢見ている

渡辺由佳里

「アメリカンドリーム」という言葉、最近聞かなくなったと感じる人も多いのではないでしょうか。本連載では、アメリカ在住で幅広い分野で活動されている渡辺由佳里さんが、そんなアメリカンドリームが現在どんなかたちで実現しているのか、を始めとした...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

consaba 渡辺由佳里「 約2ヶ月前 replyretweetfavorite

sasamichiaki やっぱり渡辺由佳里さんの話は好きだなぁ。 異なる立場の人、違う意見の人とも共通の話題で繋がる。参考にしよう。 約2ヶ月前 replyretweetfavorite

tounyu_crl "いろいろな事情で自分とは異なる信念にたどり着いた人たちであっても、自分と共通するところや、「良い人だ」と感じるところがあって、対話を心から楽しむこともよくある。" わかるなあ…。 https://t.co/2dlpspG1ar 約2ヶ月前 replyretweetfavorite

k_z_ki 今日しか全文は読めないけど、今回も興味深いエッセイです。 約2ヶ月前 replyretweetfavorite