※この記事の情報は、『週刊東洋経済』2020年8月3日発売当時のものです。
科学的事実では消えない、コロナ時代の不安や疑問。それに応えてくれるのが哲学である。今、知っておくべき5つのキーワードを解説する。
① 人を不安にするのは、事柄それ自体ではなく、それに関する考え方である (エピクテトス)
古代ローマ時代のストア派哲学者の言葉。死は決して恐ろしいものではない。むしろ「死は恐ろしい」というわれわれが死について抱く考え方、それこそが恐ろしいものの正体だ、とする。確かに「私が死ぬ」ことは絶対に体験できない。だから、自分の死は決して恐ろしいものではない、というのである。このエピクテトスの言葉は、われわれを襲っているコロナ不安についても当てはまる。
例えばコロナ禍についての考え方として次のような情報が流された。「このまま何の対策も取らなければ、日本の感染者数は最大で84万人、死者数は42万人に達するおそれがある」「接触8割減を達成できなければ、日本もあと3日でニューヨークのように流行が爆発する」。これらは実際のコロナの流行(パンデミック)に先立って情報として流行(インフォデミック)し、人々を不安に陥れた。
事柄それ自体ではなくて、それについての考えこそ人々を不安にする、というのは今回のコロナ不安の問題の核心を見事に言い当てている。正しく恐れる、というのはとても難しいことだ。