女性に生まれただけで、男に人生を握られてたまるか―『竹取物語』6

物語の神は言った、「男が中心に存在してこそ正しい物語である」と。そんな神の支配する『竹取物語』の世界に生きる内気な姫さよは、物語の神の仕打ちにより家を追い出され、河原の橋の下で餓死寸前にまで追い込まれる。いよいよ息も絶えようとするその頃、さよの手を取る人物の影が忍び寄る。河出書房新社から今秋発売予定、雀野日名子さんの痛快エンタメ小説を、いち早くお届け。

【削除された姫君】


鴨川の橋の下には、半病人や貧民が身を寄せる一角がある。

大納言の姫君だった気弱な女人にょにんが、二ヶ月前から身を置いている場所である。

きさきに選ばれなかった彼女は、洛外の寺への代参を養父に命じられ、ひとりで牛車ぎっしゃに乗せられた。二名の供を連れただけの牛車は山中で賊に襲われたが、大納言は検非違使けびいしを向かわせることもなく、その日のうちに姫君を死んだことにした。

姫君は、野犬や賊に傷つけられながらほうぼうをさまよい、今は鴨川の橋の下で月を眺める日々を送っている。早く我が身の命が尽きるようにと、神仏に祈り続けながら。

やがて、空腹で動くことができなくなった姫君は、横たわるだけとなった。

これでようやく、命が尽きてくれる。

自身が、誰かの作った物語のなかにいるだけだったら、どんなにいいだろう。

誰かが、物語の外へと連れだしてくれたなら、どれほど救われるだろう。

月から牛車が降りてくるように見えるのは、現実なのか夢なのか。

姫君は、まるまると輝く月へと手を伸ばす。その手をつかむ者がいた。

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かぐや姫、物語を書きかえろ!

雀野日名子
河出書房新社
2021-11-02

この連載について

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かぐや姫、物語を書きかえろ!

雀野日名子

物語の神は言った、「男が中心に存在してこそ“正しい物語”である」と。 そんな神の支配する『竹取物語』の世界に生きる内気な姫さよは、帝の后選びの場で勝気な姫ごうに出会う。自由を求め物語の神に反旗を翻した二人は、『源氏物語』から『平家...もっと読む

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