男の愛を得るために、必要なのはコネか信心か―『竹取物語』2

物語の神は言った、「男が中心に存在してこそ正しい物語である」と。そんな神の支配する『竹取物語』の世界に生きる内気な姫さよは、毎日泣いて過ごすばかり。一方、他の姫君の一人は帝とのコネクションで后に選ばれようとし、もう一人は神仏に祈るばかり。名も与えられず、限られた席を奪い合う姫たちの運命はいかに。河出書房新社から今秋発売、雀野日名子さんの痛快エンタメ小説をいち早くお届け!

【姫君その二 自信家の姫君のある日】


硯箱を用意させた石作皇子いしづくりのみこの姫君は、文机に置かれた薄様かみを見て怒りを露わにした。

「なにゆえ藤色の薄様なのじゃ!」

「藤は、繁栄を願う縁起のよい花でございます」

かりやすめを持ってまいれ!」

「け、けれども、刈安の時期は終わっており、お歌に相応ふさわしくございません」

「帝のお好みは、私がよう存じあげておる!」

この姫君の父は帝と同じ曽祖父を持つ。八色やくさかばねの最高位にある血筋で、姫君は幼い頃から皇太后や皇后の私邸に招かれてきた。ときには帝をまじえて、矢投げ遊びや双六に興じたりもした。

この姫君に与えられたお題は、仏の御石みいしの鉢である。それは仏陀が愛用したといわれる黒く輝く石鉢で、遠く離れた天竺の国に、ただひとつだけ存在するという。好事家の父は幸いなことに、このお題が出る前によく似た鉢を作らせていた。さらに都合の良いことに、叔母が古今東西の箏の譜面を集めていて、仏の御石の鉢を題材としたものも所有していた。

帝は音楽に一家言あるので、姫君が既存の譜面をなぞれば気づくかもしれない。だが石作の姫君がすることなら許してくれる。帝に捧げる和歌だって、そう。古今和歌集や万葉集を引用しているので、宮中の生意気な女御にょうごがしたり顔で指摘してくるかもしれないが、帝は聞き流すだろう。琴の曲も和歌ももうすぐ完成する。姫は早々に参内さんだいする予定だ。

「それで、他の姫らの様子はどうじゃ」

「右大臣の屋敷には商団が出入りしております。唐やこくの琴でも取り寄せるのでしょう」

「ふん、琴が泣くわ。では、車持皇子くらもちのみこの姫の様子はどう」

「尼寺に籠もり、心願成就を祈念しております」

「父上と同じ皇子でも、車持は庶子の血筋。ふふふ、苦しかろうのう」

「さらに大納言は気の早いことに、屋敷の大修繕を始めたご様子でございます」

「厚かましい武人あがりめ! あんな取り柄のない娘が、后に選ばれるとでも思うたか」

 別の女房が「ところで、面白い噂を耳にしました」と小声で切りだした。

「中納言の姫のことでございます。琴にも和歌にも手を付けず、怠けてばかりだとか」

「ふん、ずる賢い娘だこと。后選びに興味がないふりをすれば、帝の関心を引くことができると計算しているのじゃ」

 女房たちは口元を扇で隠したまま、媚びるように忍び笑いをもらす。

「帝のお心を得られるのは姫さまだけにございます」

「姫さまは、帝の后になられるためにお生まれになったのです」

「当然じゃ。ほほほ」

そのとき、使用人の女が簾ごしに姫君に声をかけてきた。

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

かぐや姫、物語を書きかえろ!

雀野日名子
河出書房新社
2021-11-02

この連載について

初回を読む
かぐや姫、物語を書きかえろ!

雀野日名子

物語の神は言った、「男が中心に存在してこそ“正しい物語”である」と。 そんな神の支配する『竹取物語』の世界に生きる内気な姫さよは、帝の后選びの場で勝気な姫ごうに出会う。自由を求め物語の神に反旗を翻した二人は、『源氏物語』から『平家...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

PagannPoetry 公開されました〜!公開から1週間、今なら無料で読めます。今の社会に生きづらさを感じている人、ぜひ息抜きにどうぞ。 8ヶ月前 replyretweetfavorite