「こどもエリー学園」、立ち上がる
日常に巻き起こるあれこれを掬いあげ、瞬時に笑いや涙に変えてしまう名エッセイストとしてまずは名を馳せた。
同時に、数々の舞台や映像の演出をしたり、映画監督を務めたりもしてきた。
テレビ、ラジオ、ウェブメディアでのパーソナリティとしてもおなじみで、交友関係の広がりは限りない。
そして近年は、主に絵画を描くアーティストとして、国内外で個展を開催している。
とうていひとりの人間の所業とは思えないほど、多彩な活動を続けてきたのが大宮エリーさんだ。
次はいったいどんなことを始めるのか。何に乗り出すのか。近々の動きを追ってみれば、真新しい活動がふたつある。
そのひとつは、学校。2021年8月にオンライン上で、「こどもエリー学園」を開校した。
もともと前年から、大人のクリエイティブを鍛える名目の「エリー学園」を開いてきた。これが好評で、子ども向けの学校もやってほしいとの声が本人のもとには多く寄せられた。
既存の学校や塾を否定するつもりはないが、正規の学校以外にも学びの場はあったほうがいいとつねづね思っていたところだ。個人の営みで既存の学校教育を補うことができたらと、小学生~中学生を対象に授業を展開することとした。
この学校で主に取り扱う中身は何かといえば、「ことば」と「アート」。なぜこのふたつか。本人はこう話す。
「大人も子どもも、人としてどうありたいか? を問えば、『思いやりのある人になりたい』というところに落ち着くんじゃないですか。じゃあ、人を思いやるには何が必要か? 想像力でしょう。想像力を培うには、理性を司る『ことば』と感性を養う『アート』の力を、同時につけるのがいいと思うんです」
学校は隔週で90分の授業がオンラインで開かれる。毎月2回の通常授業は、お題の会と発表会で構成され、毎月のお題はたとえば、
「名刺をつくろう!」
「自分にキャッチコピーをつくろう!」
「わくわくを撮ってこよう!」
といったものが並ぶ。これまでの多彩な活動のなかで、ワークショップや授業の類を手がけた経験も多数あるので、その知見を活かしカリキュラムを組んだ。
「以前テレビ番組の企画で、小学生に授業をしたことがありました。そのときやったのが、自分の名刺をつくってみようというもの。自分と他者をよりよく知るための一環として、どんなかたちでもいいから自分を紹介する名刺をつくって人に渡してみるのです。
そのとき、靴の空き箱を真っ黒に塗って持ってきた子がいたんですよね。たまたま交換相手になってそれを受け取った子に『どう思った?』と聞いたら『きたないなって思った』って。渡したほうの子にどう思われたかったか聞くと『かっこいいと思ってもらいたかったのに……』。自分の思ってることがそんな簡単には伝わらないってことを、体験してもらえたかなと思う。だからこそ想像力を駆使して、伝える努力をしないといけないんですよね。
これは相手の発信を受け止める練習にもなります。いまはSNS全盛の時代になって、誰もが発信できるのはいいんだけど、とかく承認欲求ばかり先走ってしまうことになってるじゃないですか。その前に、相手を認めてあげることもしてるかな? と問いかけたい。『いいね』ボタンを押すだけより、もうちょっと深い受け止めをできないものかなと思いますものね。
そのテレビ番組では、ワクワクを撮ってみるという授業もしました。デジカメを配って、自分がワクワクするものを好きに撮ってきて発表してもらう。ひとり、時計を撮ってきた子がいて、なんで? と訊いたら『給食の時間がいちばんワクワクするから、まだかな? って一日に何度も見ちゃう』と教えてくれました。
ふだんクラスでぜんぜんしゃべらない子にも写真を見せてもらったら、石ころが写っているんですよ。どういう意味があるの? って訊いたら、『アリ』と答えてくれた。アリから見た石なのだそう。極端に見上げるアングルで撮った写真はたしかに迫力があって、アリから見たら石ころもスゴいものに見えるんだろうなって想像できた。おもしろい見方をするものでしょう?
私たちはとかく決まりきった尺度で、人を測ってしまいがちじゃないですか。小さいころなんかとくに、スポーツも勉強もできてひょうきんだと人気者になれるとか、かなり画一的だったりする。それ以外にも人はいろんな個性を持っているよということに、ちゃんと気づけるようなカリキュラムをどんどん考えていきたい」
通常授業とは別に、月に1回は特別授業も開講。こちらは「おもしろい大人」と題して、学校の先生からシェフに転身した人、人間国宝の漆職人……。大宮エリーさんの幅広い人脈から、おもしろく世を生きている人物が続々登場する。
「昔は近所に名物おじさん・おばさんとかがいて、変わった大人と接する機会もあったけど、いまはそういうのが減っていると聞くので、おもしろい大人をどんどん子どもにぶつけていきたい。授業を通していろんなことや人に出逢って、ああ世界ってけっこう広いんだなと感じてもらえたら何より。わたしも小さいころはいじめられていて学校に行きづらくなった時期があったんですけど、そのとき通った塾が救いになりました。そこでは自分が否定されなかったから。
『こどもエリー学園』が、もうひとつの居場所になって、救われる子がひとりでもいるとしたらそれだけでうれしい。オンラインだから、北海道の人と九州の人が知り合って友だちになれるかもしれないし。
コロナ禍が続いて、子どもたちは自由に出かけられなかったり、学校行事もなかったりして思い出がなかなかつくれないとも聞きます。せめて『あの頃はあまり出かけられなかったけど、エリーの学校ではいろんなことしたな、おもしろかったな』と思ってもらえたらいいですよね」
この8月7日に開校したけれど、現在も新規募集枠はあり。詳細な情報はこちらより。