※この記事は、去る2019年の夏に開催されたイベントの「実況中継」です。記載内容は全て開催当時のものになります。
みなさん、こんにちは。投資家の藤野英人です。
私は今日、みなさんと出会えて、本当に嬉しい。私も学生のときに学んだことが今でも役に立っていてですね、それで今の自分があると思っていますので。これから4時限目として、「選択」をテーマに授業を進めていきますが、みなさんの未来に役立つ、何か心に残る話ができればいいなあと、思っています。
私はあの日、日本一になると「決めた」
はじめに私の紹介からしたいんですけれども、いいですか。私はですね、じつは、日本のアクティブ投資信託として最大級のお金を運用している人間なんです。信じられますか。みなさん、ただのおじさんだと思ってました?(笑)
投資信託「ひふみ投信」を運用しているファンドマネージャーが、私。とはいえ、どんな仕事をしているのか、イメージしにくいかもしれませんね。投資信託ってなに? ファンドマネージャーって、いったいなんのマネージャーなの?って。
たとえば、そうですね。ここにいるみなさんが、お年玉の1万円を私に預けてくれたとしましょう。20人が1万円ずつ預けてくれたと。その20万円を私が「これから成長しそうだ!」と思う会社に託す。
ここで重要なのは、いかに「成長する会社」に託せるか。実際に私は、会社のオフィスやビジネスの現場に足を運んで、そこにいる人たちと会っていろいろ話をして、成長するかどうかをプロとして見極めます。
そうしてお金を託した会社が、託されたお金を使って商売をして、成長して利益を上げたら、そのお礼として私はその成長分をみなさんにお返しできるかもしれません。
そうやって、私がみなさんから集めて動かしているお金は、......約8000億円。と言っても、ぜんぜんピンとこないですよね。いったい8000億円とは、どのくらいの規模感なのか? ひとつのアクティブファンドの金額としては、なんと日本だけでなくアジアでも最大級。中国よりも、香港よりも、シンガポールよりも、アジアのどこの会社よりも、大きなお金を運用しているのが、私たちの「ひふみ投信」なんです(※2021年8月には「ひふみ」シリーズ全体で1兆円を突破)。
僕らが起業したのは今から16年前で、ひふみ投信を立ち上げてお金を集め始めたのは10年前。つまりたった10年間で、いわゆる日本の大手金融会社たちをライバルにして、いまや日本で、いやアジアで最大級のアクティブファンドになりました。
けっこう頑張ったんじゃないかなと自負しています。だって、16年前にたった3名でゼロからつくった会社ですよ?
ただ、僕らは最初から「日本一」になることを決めていました。野村も抜くぞ、みずほも抜くぞ、と。マジにできると思っていました。自分たちは絶対にできると。今は「アジア一」ですが、次の目標は「世界一」です。
さて、そんな僕らの会社は、日本の会社に投資しまくっています。一般的には「平成の30年間は失われた30年である」とか「もう少子高齢化でダメだ」とか言われていて、実際にそう思っている人も多いと思います。
僕らもよく「なんで日本になんて投資するんですか? 世界の方がいいんじゃないんですか?」と言われます。でも私はいつも「いやいや、そんなことはありません。日本は成長している会社だらけですよ。北海道から沖縄まで、伸びている会社がたくさんあります」と答えています。みなさん、大変驚かれます。
でもね、日本には380万社もの中小企業があるんですよ。ベンチャー企業も増えている。そのなかには、ちゃんと業績を上げている企業が数多くあるんです。むしろ業績を落としているのは、1万社の大企業、特に上位30社なんですね。日本の業績が悪化している理由は大企業。日本全体は伸びているんだけども、日本の大企業が停滞しているから、メディアなどで「日本はダメだ」と言われてしまう現実があります。
今日は、なぜ僕らが日本一、そしてアジア一になることができたのか? その「秘訣」をこっそり伝えたいと思います。みなさんは休日の貴重な時間を使ってここに来ているわけですから、何か将来に役立つ学びを持って帰ってくださいね。
なぜ「失敗したロケット」に大金を出したのか?
みなさんは、「投資」にどんなイメージを持っていますか?
お金持ちがお金でお金を稼ぐこと。損もするから危険なこと。自分とは関係ない、と思っている人も多いと思います。みなさんも、まだキョトンとした顔をしていますね。あたりまえです。高校生に投資やお金のことを教えてくれる人なんて、めったにいませんから。
投資で儲けるなんて「汗水たらさず楽してズルい」、「ギャンブルでしょ?」、「悪くて汚いお金だ」といったネガティブなイメージを持っている人も、少なくありません。学校の先生とか親御さんも、そうした考えの方がほとんどかもしれません。でもそれは、投資やお金に対するその人の考え方が〝汚い〟だけなんですね。
投資とは何か? その本質をみなさんにお伝えするために、ロケットの話から始めましょう。
堀江貴文さんが関わっているインターステラテクノロジズというベンチャー企業があります。彼らが作った小型ロケット「MOMO(モモ)」は、今年(2019年)5月4日に、日本の民間で最初に宇宙に到達しました。ニュースでも話題になっていたので、みなさんも知ってます? ......あ、結構な人数が知ってますね。
(写真提供:インターステラテクノロジズ)
じつはこのロケットをよーく見ると、「ひふみ」って書いてあります。ひふみ。これは、さきほど説明した、私たちが運用しているアジアで一番大きな投資信託の名前です。そしてこのイラストは、「ひふみろ」という私たちの会社のマスコットキャラクター。そう、私たちの会社のことがペイントされたロケットが、宇宙に飛んだんですね。
要するに、私たちがメインスポンサーになったんです。なので、日本初の民間ロケット打ち上げ成功の背景には、私たちの「投資」があるわけです。もし私たちがお金を出さなかったら、ひょっとしたらこのロケットは宇宙に到達していなかったかもしれない。
この写真が、堀江さんと稲川社長と私、ですね。ロケットが打ち上がった直後の記念撮影になります。
ではなぜ私たちは、成長する会社にではなく、ロケットになんて投資をしたのか?
私はもともと、ロケットにも宇宙にもぜんぜん興味なかったんです。堀江さんとは、彼が起業をする前、まったく無名の頃から20年来の友人。なので、ずーっと言われていたんです。「藤野さん、ロケット見に行こうよ。応援してよ」って。でも、「いやあ、ロケット興味ないんだよね、別の人に当たってよ」と答えていました。
で、MOMO1号機の打ち上げのときに、彼から連絡があって。「せめて、打ち上げの現場だけでも動画で見てほしい」と言われたので、まあ、動画をつけっぱなしにしていろいろやりながら2日がかりで見ていたんです。天候の条件が整わないと、飛ばせないからですね。そして2日目の夕方、ようやくロケットが打ち上がった。霧の中、ギィィィィィィーッって。おお、宇宙へ行くのか?と見守っていたら、20km地点で異常が見つかって安全装置がすぐ働き、エンジンが切れて、そのまま落下しちゃった。
ああ、宇宙へ行けなかった......。2日間見ていたら気持ちがなんだろう、乗り移ったというか。気づいたら、失敗した15秒ぐらい後に、堀江さんにFacebookでメッセージを送って、「つぎ、スポンサーするから。僕、お金出す」って伝えてたんです。
なぜか。ただ単に感動しただけではなく、1号機が失敗したということは、2号機でスポンサーを集めるのは難しくなりますよね? 失敗したその瞬間に手を挙げれば、結構な確率でメインスポンサーになれる。それから、一応20kmは打ち上がっているから、次は100kmいくだろうなと思ったんですね。100km飛べば宇宙に到達したということで、成功なんです。
それで、MOMO2号機に会社でお金を出すことを決めて。ちょうど今から1年ぐらい前に、北海道へ打ち上げの現場を見に行きました。発射台から4km離れた地点から、ワクワクしながらカウントダウンをして。10、9、8、7……0。その瞬間に、今度はキィィィィ——ンという音がして。うおお、あっという間に宇宙に行ったのかな!?と思ったわけですよ。その後、し——んとして、離れた地点からだと何が起きたかわからなかったので、急いで中継動画を見てみたんです。
すると、唖然としました。ロケットは、20kmどころか、たった20m打ち上がったところで煙を出して落下し、大爆発していたんです。もう、顔が真っ青。やばい。僕らの会社のロゴが堂々と入ったロケットは火の海となり、投資した大金が一瞬にして消えてしまった。宣伝どころじゃない。どうしようって。
さすがに3号機への出資は悩むじゃないですか。だって、1号機は失敗、2号機も大失敗でしょ。燃えちゃってね。いまだ民間単独で宇宙に到達したロケットはないわけですよ。3号機が成功する保証はどこにもない。出資したいけど、さすがに勇気がいります。
それでも私は、またロケットに投資したいと思いました。私は社長なんで、取締役会で言ったんです。「MOMO3号機にもお金を出したい」って。取締役会というのは、誰を取り締まっているのか知ってます? ......社長です。要は、社長が会社のためにちゃんと行動するかを見張っているんですね。そこで、当然のように、社外取締役から反対に合いました。
「つぎ、成功する保証はある?」
「......ありません」
「成功すると思う?」
「......思います。ただ確証はありません」
「それで、会社としてお金出せます?」
この場面、みなさんならどうしますか?
まあ、もちろん言ったのは、「ここでスポンサーを降りて、つぎに3号機の打ち上げが成功したら、我々の投資はそれこそ無駄になってしまう。失敗のまま終わらせず、成功することを夢見て、つぎもお金を出すべきじゃないですか」と。
(写真:インターステラテクノロジズ動画より)
あ、そうそうそう、これ。爆発の写真。こんな感じで燃えちゃって。これがネットにバラ撒かれたんですよね。僕らは投資会社なので成績が良いときも悪いときもあるんですが、成績が下がったときにこれがサムネイルに貼られて、ネット掲示板で「ひふみ大爆発」なんて書かれちゃうんですよ(笑)。いやあ、これはホント逆宣伝だなと。またつぎ、大爆発したら「プロとして見る目あるの?」ってことになりません?
だから悩むわけですよ。成功する保証はない。失敗したらめちゃくちゃ怒られるし、会社のお金も吹っ飛びます。すごい悩んだ。私はどうしたか? 結局、個人でお金を出すことにしたんです。「ひふみ」と書くわけですから、3分の1を会社から出して、3分の2は私が出します、と。折衷案です。会社は、しょうがないね、君が個人のお金を吹っ飛ばすことになるかもしれないけど、って(笑)。
そうして迎えた、今年(2019年)の5月4日、打ち上げの日。ドキドキじゃないですか。だって今度は個人のお金も入っているんですよ? しかも何百万円とかのレベルじゃない。何度か延期をくり返して、いよいよカウントダウン。
......3、2、1。
爪楊枝の先くらいのロケットが太陽の光に照らされて打ち上がった。よかった、なんとか20mは飛んだ(笑)。もうそこからは祈るしかない。どんどん空高く飛んでいって、そして......ついに、宇宙到達! 現場にいた人たちは、そりゃあ、もう大歓喜。おじさんとかもみんな、ぴょんぴょん跳ねててね(笑)。やったー! やったー!!って。
結果的に、MOMO3号機は、日本の宇宙開発を大きく前進させました。日本初、世界でも民間で4社目。有名なスペースX社とかね、アマゾンとかね。いちばん資本金の小さい、日本の小さな会社が、アメリカの巨大企業に並んで宇宙到達を実現した。すごいことですよ。僕らはそのスポンサーだったんです。
投資とは、「未来を信じて託す」こと
なんでこんなに、ロケットの話を長々しているかというと、ここに投資の本質が現れているからなんです。 私が失敗を重ねたMOMO3号機に投資をしたいちばん大きな理由。......それは、私が「成功する未来を信じていた」から、なんですね。堀江さんや稲川社長、何度失敗してもロケットが飛ぶ未来を夢見て挑戦するスタッフたちを信じると決めたから。
もちろん私が彼らを信じたからといって、成功するとはかぎりません。失敗し続けるかもしれない。投資はいつだって未来に向けたものだけれども、未来は誰にもわからない。だから最後はもう「エイヤ!」という気持ちで、腹をくくって、なかば勢いで決断したんです。お金儲けとか会社のためとか、理屈ではなく、個人的な想いが強い。最後の決め手は理論ではなく、気持ち、なんです。
まあ、失敗したら、「私個人の夢でした!」って言い訳もちゃんと考えてましたけどね(笑)。信じて決断したって、「絶対」はないのでね。 3号機に投資をするかしないか。その選択を考えたときに、社外取締役だけでなく、おそらく多くの人が「失敗する可能性」に目を向けて、リスクを避け、投資しない選択を選ぶでしょう。
でも私は、失敗しても挑戦し続ける人たち、「成功する未来」を信じて、投資することを決めた。彼らに、未来に、かけようと。
そんなの綺麗事だし結果論だと思うかもしれません。でも本当に、あのときの私の判断は「希望を見て、未来を信じた」。ただそれだけなんです。ロケットにかぎらず、最後の最後は、人を信じて、彼らが成長する未来にかけるしかない。
もちろん、失敗もします。それでも信じ続ける。事実、そうやって私は投資で成果を上げてきたんです。決して、理想論ではありません。
たとえ今は結果が出ていなくても、何度失敗していても、挑戦する人に向き合い、信じて、彼らが成長する未来からお返しをもらう。それが、投資。投資家にもっとも必要なのは、お金を扱う能力なんかではなく、信じる力なんです。
投資とは「未来を信じて託すこと」。まだ見ぬ未来を信じることができなければ、投資家にはなり得ません。
「失望」ではなく、「希望」に目を向けよう
投資っていうのはなにも、お金のことだけではありませんよ。私の考える投資の定義は、「エネルギーを投入して、未来からお返しをもらうこと」。それだけ。
そのエネルギーは、お金であることもありますが、時間だったり、情熱だったり、体力だったり、根性だったり。どんな会社であっても、お金があれば自動的に成功するなんてことは、ないですね。お金はあくまでエネルギーのひとつ。
だから投資には、じつはいろんな種類があって、みなさん一人ひとりが「投資家」なんです。