体の関係よりも先に決まった意外なこと

彼に迫られる中、苦し紛れに「婚活目的」という本音を話してしまった麻衣子。彼はどのような反応をするのでしょうか。著者の体験を元に「港区女子」のその後を描いた小説です。

彼の手が止まった。
なんなら空気まで止まった。さっきまでゆっくりと流れていた時間が、ぴたっと止まったのだ。無言の時間が1分ほど流れただろうか。沈黙に耐えきれず言葉を発したのは私の方だった。
「突然こんなこと言われて、びっくりですよね。ごめんなさい……。引き、ました、よね……?」
「ううん」
彼は取り乱したような様子ではなかったが、それ以上を言葉を発することもなかった。この状況がいたたまれなくて、彼が今どんな顔をしているのか、見ることすらできない。結局赤ワインのボトルが空くことはなく、グラスに注がれてある分を飲み干し、もう寝ようということになった。
完全に引かれているじゃないか。終わった、終わったな。また明日から新たに婚活をしなければならない。悲しいけれど、何もなかったかのように振る舞って明日の朝潔く帰ろう。

シングルベッドに二人で横になり消灯。もちろんこんな空気では何かが起こるわけもなく、不安と後悔で寝付けない私は自分に「大丈夫、後悔はない」と言い聞かせながら平常心を保ち、なんとか朝を迎えた。私が速やかに帰る支度をする一方で、彼は相変わらず何もしゃべらずベッドの端に腰掛けている。もうあとコートを着るだけ、となったところで彼がやっと重たい口を開いた。
「ちょっと、座って」
早くこの場から去りたい気持ちでいっぱいだが、頷いて彼の近くに座ってみる。
「昨日は何も言えなくてごめんね。俺も、大好きだよ」
彼は私の肩を抱いた。その骨ばった胸板にぎこちなさや不慣れを感じた。
いや、ちょっと待って。え? 大好き?
何が起こっているのか分からず、肩を抱かれたまましばらく放心状態だった。昨夜私が言い放った言葉を、彼は告白と受け取ってくれたということか。
彼が腕をほどき、見つめ合う。
私はまだ動揺している。でもここで何か言わなければならない。
「嬉しいです」
やっと発した一言の後、彼はキスをしてきた。
「また連絡するね」

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バラの命は短くて

一色トワ

麻衣子、30歳。20代の頃は商社マンやIT社長たちから口説かれ、合コンやパーティー三昧の日々を送っていたのに、30歳となった今、気が付けばもう誰からも飲みに誘われなくなっていた。キャリアがあるわけでも、なにかやりたいことがあるわけでも...もっと読む

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nekonosara28 港区女子の「その後」。一色トワさんの婚活小説、第6話がcakesで更新されました❤️ (イラストを描かせていただいてます) 3ヶ月前 replyretweetfavorite