大谷選手が今日もホームラン!」から考える

今回はニュース番組に映る表情について。米大リーグで連日ホームランを打ち、ア・リーグのトップを走っている大谷翔平。テレビはこの明るい話題で持ちきりですが、もちろんニュース番組には暗い話題も流れます。その時の出演者たちの表情の変化について考えます。

嬉しいニュースへの「表情変換力」

大谷翔平選手が毎日のようにホームランを打っている。「無理に力で引っ張ることなく、レフト方向にも素直に流せるようになったのが要因ではないか」などと講釈を垂れる専門知識はない。このコラムで議論したいのは、大谷選手の話でさえなく、「ワイドショーやニュース番組で、喜ばしいスポーツニュースが届いた時の、それを伝える人の表情の変化」についてである。自分は、複数のワイドショーやニュース番組を観ているので、大谷選手がホームランを打てば、1日に複数回、その表情の変化を確認することになる。

悲しいニュースから嬉しいニュースへの「表情変換力」(そんな言葉はないが)を考える時、その力がとにかく強いのが、朝のワイドショーである。自分自身、喜怒哀楽があまり表情に出ない人間なので、まずは、これだけ表情を一変させなければ務まらない仕事ってさぞかし大変なんだろうな、と思う。死亡事故を伝えた後、完成披露試写会に登場した俳優の爆笑エピソードを紹介し、曇天の天気を嘆いた後、まだまだ逼迫する病床の現状を伝え、ペットの癒し動画にキュンキュンするのである。

一般人の1日、いや、1週間分の感情の変化を、数十分で行き来しなければならない特殊業務を眺めているのだが、悲しいニュースに明るい表情が残っていたり、嬉しいニュースに悲しい表情が残っていたりするのを見かけると、「こいつ、プロ失格!」などと思うはずもなく、むしろ、人間味を感じられて安心さえする。

「海外ではそんなに『運動』に時間を割くことはない」

時差の関係もあり、大谷のホームランは、朝のワイドショーの時間に知らされることが多い。あるコーナーが終わると、「ここで速報です!」と切り替わり、映像がある時は映像を、映像が間に合っていない時は大谷の写真を載せながら、ホームランを伝える。伝え終わると、スタジオ内の出演者全員でその事実を共有する。「もう、マンガみたいですね!」「どこまで記録を伸ばすんでしょうか!」と盛り上がる。テレビの前の自分も、素直に、「うん、マンガみたいだ、一体何本打つんだろう」と盛り上がる。その混じりっけのない興奮を画面越しに知ると、完成披露試写会でのこぼれ話を拾うのなんて相当無理していたんだな、と思うのだが、いちいちそういう意地悪な比較をしてはいけない。

『高橋源一郎の飛ぶ教室』(NHKラジオ第1・4月30日)に出演した漫画家のヤマザキマリが、「スポーツ」ではなく「運動」という言い方をしながら、「どうして(日本の)朝のニュースは、あんなに『運動』に時間を割くのか」と言い、長年イタリアに住んできたヤマザキいわく「海外ではそんなに『運動』に時間を割くことはない」と続けた。そういう着眼が用意されたこと自体にハッとする。用意されていたニュースやコーナーを遮ってまで、誰かの「運動」の成果を伝える様子に、私たちの多くは疑いを持たずにいる。そして、その個人のホームランを、日本全体の価値として共有しようとする。いや、そこまで考えていない、そんなに大げさにするな、純粋に喜べよ、と言われそうだが、「運動」の価値は無頓着に膨張してきた。その膨張を止める必要はないが、逆に、膨張を見逃す必要もない。

「さぁ、スポーツです!」

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ワダアキ考 〜テレビの中のわだかまり〜

武田砂鉄

365日四六時中休むことなく流れ続けているテレビ。あまりにも日常に入り込みすぎて、さも当たり前のようになってしったテレビの世界。でも、ふとした瞬間に感じる違和感、「これって本当に当たり前なんだっけ?」。その違和感を問いただすのが今回ス...もっと読む

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thinktink_jp "来月、どうやら強行されるらしい東京オリンピックなのだが、膨大な放映権料を支払っているアメリカの放送局の都合に合わせるので、あ..." https://t.co/GePpBoG28d https://t.co/bV4aGGAhGC #drip_app 3ヶ月前 replyretweetfavorite

Pizzae_a スポーツ興味ない自分にとっては、なんでこんなにスポーツ放送があるのかな、っていつも考えてた。 3ヶ月前 replyretweetfavorite

moxcha おもしろい着眼点。だから自分は"それではスポーツです!"でチャンネルを変えるかテレビを消すのだと思う。 3ヶ月前 replyretweetfavorite