大豆田とわ子と三人の元夫』の会話劇

今回の「ワダアキ考」は、先日最終回を迎えたドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』について考えます。人気脚本家・坂元裕二が脚本を手掛けた本作、そこに描かれた会話劇とは?

無駄が削ぎ落とされているのに続く無駄話

15日に最終回を終えた『大豆田とわ子と三人の元夫』だが、これを書いているのは14日なので、どのようなエンディングを迎えたのかは知らないし、そもそも、「で、最後どうなるのか?」という興味よりも、「あの感じがもう見られなくなる」と確定している事実への寂しさのほうが強い。このドラマの登場人物の多くは、とにかく口が達者で、一発で相手を仕留めるような発言、一発で相手を不快にさせるような発言、一発で状況を説明するような発言を繰り返してくる。その精度の高さが、物語を運んでいくためにわざとらしく用意されたものではなく、人物の資質があらかじめそうであると思わせるのは脚本家・坂元裕二作品ならではだが、そう思わされるまでにしばらくの時間を要したのも事実だ。

同じく坂元裕二作品の『カルテット』では、第1話から、唐揚げにレモンをかけるかどうかの論争が巻き起こった。「レモンかけますか?」と提案された時点で、「あ、はい」と同意せざるをえない空気が生まれることの重大さ等を議論していたが、そこには、決して納得していない「はい」や、内心が読み取れない「あー」「えー」があった。今回のドラマでは、そういう場面よりも、はっきりとした主張と主張がぶつかり合うシーンが多く、同意にしても反意にしても、無駄が削ぎ落とされていた。だが、その会話自体が、ある行動のための会話ではなく、たとえ話・思い出話だったりするから、「無駄が削ぎ落とされているのに無駄話が続く」という、これまで体感したことのない時間が続いた。

会話は明確なのに気持ちは吐露されない

人間の会話というのは常に無駄が含まれているもので、たとえば、数年前、自分がある学者におこなったインタビューの文字起こしの一部を、固有名詞・事実関係などを変更し、やりとりした感じだけを残したものを載せてみると、こんな感じである。

相手 武田さんの時代というのはいっぱいそういう人たちいたんですよ。
武田 いましたね。
相手 辞めてもらって結構な時代だったんですよ。
武田 なるほどね。
相手 はい。だから全然違います。
武田 扱いが違うのか。
相手 はい。
武田 ブームとかだったので、みんなばーっと30、40並んで。
相手 そうでしょう。はい、はい。

これだけでは何のことかわからないはずだが、この前後では、自分が学生の頃にはJリーグブームが起きており、サッカー部には部員が殺到していたので、乱暴な顧問やコーチがいたとしても問題視されにくかった、という話をしている。こうやって、会話の一部分を切り抜くと、これだけ不安定な会話をしているものなのだが、おそらく脚本に組み込まれる会話となれば、

相手 武田さんの時代というのは、Jリーグブームでしたから、サッカー部に所属する生徒がたくさんいて、だからこそ、もし暴力的な顧問やコーチがいても、生徒に対して、だったら辞めてもらって構わない、って感じだったと思うんです。
武田 はい、ブームでしたから、3、40人いましたし、今と扱われ方が違っていたんでしょうね。

なんて感じになるのだろうか。未整理のまま伝えたら意味がわからないし、整理しすぎると人間味が失われる。坂元裕二脚本は、この、未整理と整理の間をたゆたう感じに引き込まれるのだが、今回のドラマはどっちかっていうと後者のような会話が続く。とはいえ、会話は整理されているのに、それぞれの気持ちが吐露されるわけではない。個々の状態に、外からは分析し難い複数性・多義性が生まれていく。

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ワダアキ考 〜テレビの中のわだかまり〜

武田砂鉄

365日四六時中休むことなく流れ続けているテレビ。あまりにも日常に入り込みすぎて、さも当たり前のようになってしったテレビの世界。でも、ふとした瞬間に感じる違和感、「これって本当に当たり前なんだっけ?」。その違和感を問いただすのが今回ス...もっと読む

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コメント

key_306 砂鉄さんらしいなぁw。    約2ヶ月前 replyretweetfavorite

takedasatetsu 「『無駄が削ぎ落とされているのに無駄話が続く』という、これまで体感したことのない時間」についてや、「相容れない人間たちが、もしかしたら相容れるかもしれない可能性を常に模索している感じ」について書きました。 https://t.co/NJskeqIB5p 約2ヶ月前 replyretweetfavorite

nbk_jb 「未整理と整理の間をたゆたう感じ」そうなんです。ロスです。 約2ヶ月前 replyretweetfavorite

minoru_tanaka 「相容れない人間たちが、もしかしたら相容れるかもしれない可能性を常に模索している」 これだ!!! @takedasatetsu | 約2ヶ月前 replyretweetfavorite