何であれ「これぞ!」という活動の核があって、それを続けている人は幸せだ。
鳥居みゆきの場合、それは単独ライブになる。
「狂宴封鎖的世界」とのタイトルを冠し、2003年から数年ごとにつくられてきた舞台だ。
歌あり、コント風のシーンありと多彩な要素を孕みながら、全体としては演劇的物語が展開する。
出演者は必要最小限。鳥居は主役を務めるのはもちろん、全体の構成から演出まで自身であらゆることを手がける。
すべてが鳥居みゆきの色に染め上げられた、まさに「狂宴封鎖的世界」をそこでは体感できるわけだ。
テレビでお笑いネタを披露したり、女優として映画に出演したり、歌ったり書き物をしたり、最近はYouTubeでAdoのヒット曲『うっせぇわ』完コピしたり。日ごろ多様な才を発揮する鳥居みゆきの姿を観て、なんとなく「知った気」でいる向きは多いかもしれないが、それらはどれも彼女の一端でしかない。
表現者としての全体像を知るには、やはり単独ライブだ。彼女自身、そこにすべてを賭けて注ぎ込んでいる。
どんなにスケジュールがきつくとも、心身への負担がのしかかかっても、この20年近く単独ライブだけは何がなんでも続けてきた。その理由を、本人はこう言い表す。
「わたしの脳味噌を丸ごと見てもらう場が、わたしにはどうしても必要なんです」
たとえテレビでネタを見せる機会があったとて、それは番組側のオーケーをもらった「安全なネタ」だし、たとえば4分など持ち時間はきっちり決まっている。それじゃやはり足りないのだ。
鳥居みゆきの最新単独ライブは、2021年6月に開かれることとなった。そこにはどんなテーマと内容が盛り込まれたか。
「未来の世界を描きつつ、現在の世の現状を暴き出してます。今はみんなマスクをつけて生活しているじゃないですか。していないと『マスク警察』に追及されたりする。事態が変わればまた違う「正義」や「常識」が出てきたりする……ってどんどん考えていくと、今とは真逆の世界、そのまた真逆の世界となって、スゴイ事態になるのが想像できた。それを表現しなきゃ、と自分の中で作品の世界が固まっていきました」
公演のタイトルは「不動」という。この言葉はどこから?
「言い訳ばかりして結局は何もしない人って、けっこう多いじゃないですか。『できませんでした。だってこうだから』と言われると、できなかったじゃないんだよお前がしなかっただけだろ、ごまかさずに『自分がしませんでした』ってちゃんと言えよ! と怒鳴りたくなる。まあ自分もそういうひとりなんだけど。何だかんだと、動かない理由ばっかり探して人は生きてる。そのあたりのことを暴きたかったというのがあります」
ここに公演のメインビジュアルがある。どこかの棚に瓶が置かれており、その中にハッと目を惹くものが詰まっている。
「わたしが瓶の中に閉じ込められているんだけど、よく見れば瓶にはヒビが入っていていつでも出られる。それなのに、外に出ない理由をみずから探しているんですよね。瓶を覗き込んでいる目がガラスに写り込んでいて、それもわたしの目であるという……」
瓶の中には他にも、動物の死骸や血のイメージも見える。生と死という問題を生々しく描き出すのも、鳥居みゆきの表現の特色。今回もその要素は色濃く出ていそうだ。
「わたしは昔から『死にたい死にたい』とばかり言ってきました。35歳で死ぬって自分で信じていたし。わたしにとっての『生と死』はいつも揺れ動いていて、そのあたりのことは今回もたっぷり盛り込んでありますよ」
現実が変わればお芝居の内容だって変わるもの
今作はもともと、2020年の前半に公演が予定されていたものだった。ところが折りから世の中はコロナ禍に見舞われる。最初の緊急事態宣言と公演日程が被り、見舞われ、いったん延期となった。数ヶ月後に日程を組み直したが、状況は上向かず再度の延期。年をまたいで、ようやく幕が開けられることとなった。
公演時期がずれたことで、当初予定されていた内容は変化があったのだろうか。