こんな自分で大丈夫かどうか」をスマホで検索してしまう時代に

今回、牧村さんのもとには、自分自身のセクシュアリティを自覚して以来、過去の行動に罪悪感を抱いているという方からのお悩みが届きました。女子会に参加したり、温泉に入る権利はないのではないかと悩む相談者さんに牧村さんは優しく寄り添いながら、「自分のモヤモヤに名前をつけてくれる言葉で、逆にモヤモヤさせられないためにはどうしたらいいか」を考えていきます。


※牧村さんに聞いてみたいことやこの連載に対する感想がある方は、応募フォームを通じてお送りください! HN・匿名でもかまいません。/バナー写真撮影:田中舞 着物スタイリング:渡部あや

誰かの決めたハッピーエンドに向かって頑張らされるより、自分のペンで自分の人生の物語を書いていこう。っていう人生相談連載、「ハッピーエンドに殺されない」。

今回は「自分のモヤモヤに名前をつけてくれる言葉で、逆にモヤモヤさせられないためにはどうしたらいいか」の話です。

モヤモヤを言葉の箱に片付ける。例えば、「HSP」「毒親」「非モテ」……。説明がついた気がしてた。気が楽になった気がしてた。なのに、なんだか、なんだろう、なんか、うーん……。ってなってるあなたと、考えたいです。

まずは、おたよりからです。

これまでの相談者に対する真摯な態度と的確なアドバイスに惹かれ、私も相談したいことがあるのでよろしくお願いいたします。

私はXジェンダー(※)で戸籍上女、ただしXジェンダーの概念を知ったのが遅かったため自分が当事者と知ったのは成人もとうに過ぎてからでした。なので、自覚がなかったときは温泉にも入りまくるわ女子会に誘われたらノリノリで参加するわだったため、コロナ禍で旅行も飲み会もままならない今になってひどい罪悪感に襲われています。
(※牧村注 Xジェンダー……自身を男性/女性のいずれにも当てはめきらない生き方の表明として名乗る言葉。英語圏のジェンダー・セクシュアリティ論の影響を受けつつ、90年代日本で生まれた概念。)

Xだから「女子」会に参加すること自体間違っていた気がするし、普通の女性なら当たり前にできる恋愛や体の悩み、はたまたファッションの話は全然乗れなくて受け流してたから嫌な雰囲気になってたかもしれません(無性愛者でもあるので)。

また、裸にならざるを得ない温泉では隣で入浴している人が姿は女性でも内面が非女性だったら不快なのでは?という気がします。

いつかコロナ禍が明けてまた温泉旅行ができる日が来るという希望を胸に抱いて日々を生きていますが、ふとXの私にその権利はない(貸しきり風呂付きの旅館選べば解決という意見もあるかも知れませんが、私の少ない稼ぎではとても手が出ません)のでは?とか今までやってきたことへの罪悪感に潰されそうになります。
どう折り合いをつければよいのでしょうか。

(全文拝読の上、注釈を入れて掲載しました)


おたより、拝読いたしました。ものすごく2021年の日本を感じております。

「このような自分で大丈夫かどうか」をスマホで検索する感じです。

そのやり方してると、「そのようなご自分で大丈夫なのですよ」と言ってもらえるところに自分で自分を押し込めてしまう。今回の場合「Xジェンダーでも温泉に入っていいのですよ」という感じをあなたはどこかから得ようとしておられるのではと思いますが、わたしはそれを提供しません。それって、わたしはあなたをいつまでもその、「Xジェンダー当事者で無性愛者の自分/非当事者のみなさん」っていう世界に押し込める行為だと思うから。

この連載の昔の回では、そうして「そのようなご自分で大丈夫なのですよ」をやっていたこともあります。例えば2014年の、「レズビアンは女湯に入るのを遠慮すべき?」の回を見て頂きたい。「このような自分で大丈夫でしょうか」って言っている人に「大丈夫ですよ」って言うことに使命感を持ってきましたが、それで「このような自分で大丈夫だと思わせてくれる人たちのことばかりスマホで見る」空気の醸成にわたしが寄与してしまったのならば、責任を取らなければならないなと思います。

「このような自分」を一言で言い表してくれる、他人の言葉。あなたの場合、Xジェンダー。

その言葉の使い方によっては出られなくなる、「当事者の自分と非当事者のみなさん」っていう世界……。

そこが気持ちいいなら引きずり出そうとはしません。けど。そこからでいい、ちょっと、展望台にのぼってみませんか。

自分のことを説明してくれる言葉に自分からはまりにいくと、そこから動けません。言葉に使われずに、言葉を使いたい。「このような自分で大丈夫だと思わせてくれる言葉」に使われずに使う方法、わたしの場合はこうしています、という話をします。

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ハッピーエンドに殺されない

牧村朝子

性のことは、人生のこと。フランスでの国際同性結婚や、アメリカでのLGBTsコミュニティ取材などを経て、愛と性のことについて書き続ける文筆家の牧村朝子さんが、cakes読者のみなさんからの投稿に答えます。2014年から、200件を超える...もっと読む

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コメント

akar_ui 必読と思いました。 「自分のことを説明してくれる言葉」に閉じこもってしまわないために。 約1ヶ月前 replyretweetfavorite

see_na https://t.co/O26Zf3QfyE >「○○って言葉に出会えたおかげで、一人じゃないって思えました」 こういう感じになってる人が多いなって思うんです。 >そういう感じにさせる仕組みが組まれたのはなぜなのか考えたいんで… https://t.co/qNMDmd772i 約1ヶ月前 replyretweetfavorite

zumitarou https://t.co/2ZhiAAMDwM この記事読んだ後、仕事中ずっと、「包み込むもの」と「切断するもの」(俗に言うところの"母性"原理と"父性"原理)について考えていた……。 約1ヶ月前 replyretweetfavorite

gibbous_leo ▶️ いつもながら言葉と概念の関係を考えさせられます。… https://t.co/EanNdWzGbN 約1ヶ月前 replyretweetfavorite