「色々ありましたけど、こうなったら応援しましょうよ」
先週木曜日から東京五輪の聖火リレーが始まったが、その様子を伝えるニュースの前後では、「繁華街の人出が増えています!」「宴会が禁止されているとはいえ、公園は桜を見に来た人で溢れています!」「観光名所では歩道からはみ出るほどの人がいます!」と伝えており、「人がたくさん出歩いている」という状態としては同じなのに、なぜか聖火リレーについてはポジティブに報じられている。ランナーそれぞれが背負う物語を引き出しながら、その家族らのインタビューを交えてイイ感じに仕立てる手法は予想通りなのだが、あまりに予想通りにやられると、マジでこんな感じでいくのかと、しっかり呆れてしまう。各番組のコメンテーターによる「色々ありましたけど、こうなったら応援しましょうよ」という無責任な声も、その物語のバトンを受け継いでいく。
首都圏の緊急事態宣言が解除されたのが3月21日、聖火リレーの開始が25日。新規感染者数が減少するどころか微増を続ける中での解除が、聖火リレーに合わせたものだと断言するのは難しいものの、全く関係ないと断言するのはもっと難しい。昨年は、聖火リレー開始2日前に五輪の1年延期が決まり、それ以降、聖火に代わって走り出したのが、それまであまり表に出てこなかった小池百合子都知事だった。当時、「どうしても五輪をやりたい」と表裏一体で「だからコロナはたいしたことないって思わせたい」との思惑が、都にも国にも組織委員会にもあった。森喜朗会長(当時)が「(リレーがスタートする)26日は、私が必ず福島へ参ります」と言い、武藤敏郎事務総長が「聖火リレーの中止は全く考えていない」と言ったのは昨年3月23日。延期が決まったのは翌24日だった。どうだろう、この感じ、今に続いていないだろうか。
意思を示さないままキャンセル
なぜ聖火リレーを始めたか。だって、今度こそ始めることになってたんだもん。これしか理由がない。それは、聖火リレーを報じるニュース映像ではなく、その場に立ち会った人のSNSから流れてくる動画に映る、東日本大震災の被災地を走り抜けるスポンサーの車列の圧を見ればわかる。「次男がランナーの伴走者に選ばれているんだ」と目を輝かせていた男性が、大音量でDJの掛け声と音楽を鳴らす車列を見て漏らした一言、「これはちょっと違うんでねえか」(東京新聞web・26日)が全てである。
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