これはどういうことなんだろう。私の目の前に、腕を組んだ女子大生3人がローテーブルを挟んで座り、部屋の隅では友人がICレコーダーを回しながらその様子を見守っている。窓から射す灰色の光が女子大生たちの頬を白く照らしていた。3人とも苛立ちを抑えているのだろうか、やけに冷静な声で話す。
「しっかりしてもらわないと困るんですよ」
新御徒町駅から徒歩3分ほど。アーケード商店街の一角にあるマンションの一室で、私は女子大生に説教されていた。
「私、非処女嫌いなんですよね」
「お前は俺が考える“こじらせ女子”だから」。ある日突然、大学の同級生Dから連絡が来た。同級生といっても、就職活動の終わりに知り合った学部の違う男子で、まともに会話したことはほとんどない。Twitterでフォローしあっているぐらいの関係性だ。
当時、私は新卒で入社した会社を適応障害で休職中。同級生がきらめく社会人生活をSNSで投稿するなか、私は仕事も恋人も友達も、貯金だってなかった。
営業先で「死ね」と言われ、資料作りのために朝までオフィスにいる日々。毎日更新される売上に緊張しながら過ごす生活。上司からよくわからないことで怒鳴られては、弁明しながら「これは説明なのか、言い訳なのか」と考える。気がついた時には、サラリーマンが行き交う新橋駅で過呼吸になっていた。みんなが当たり前のようにこなすことが、自分にはできない。むしろスタート地点に立つ資格すらなかった。
出口の見えない生活のなか、暇さえあればTwitterで鬱々しい胸の内を垂れ流していた。
それを見ていたDは、批評系の同人誌を作るにあたって、私をサンプルにしたいと声をかけてきたのだ。企画は2013年、14年と2回も流行語大賞にノミネートされた「こじらせ女子」特集だった。「こじらせ女子」である私が、歳上・同世代・歳下といった複数の女子たちにアドバイスをもらいにいくものらしい。
そんな経緯で、私は女子大生3人に会った。茶髪が1人、黒髪が2人。3人とも違う大学に通っていて、Dの同人誌作りを手伝っているようだ。茶髪の子が、開口一番こう話す。
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