保険証
「じつは保険証ってね、ボールを投げるヒントになるんです」
と、中沢さんは言う。
「そのひとの情報がざっくりわかるんですよ。知ってました?」
どんな情報がわかるのだろうか?
まずは、保険の種類。「国民健康保険」か「社会保険」か、で仕事の種類がわかる。
また、よく見ると、はたらいている「本人」なのか、「扶養家族」なのかも保険証にはしっかりと書いてある。
「夜の仕事のひとで多いのは、個人事業主が入る『国民健康保険』で、かつ『扶養家族』。20代半ばのひとでこれに該当していたら『夜の仕事かな』とアタリをつけます。
会社員だと『社会保険』の『本人』になりますから」
「あとは『保険者番号』の左端の数字ですね。中小企業だと01。06は組合があるところなのでしっかりした大企業が多いとか、いろんな情報が得られます」
そのほかにも、「番号」欄に書かれた数字が「1」だと「創業者」、といったこともわかるそうだ。
中沢さんは、こうした情報を得て話す内容も変えていく。
たとえば23歳で保険者番号の数字が「01」、番号が「1」だと「若くして自分で会社をやっているんだな」とわかる。それで抗うつ剤が処方されていたら「孤独を抱えているのかな、事業が大変なのかな」と考える。
「そのときは、『事業やってると悩ましいこと尽きないよね』って声をかけたりしますね」
たとえば、いつもメンタル系の処方薬をもらいにくる20代のある女の子は、大企業の「06」の「本人」、つまり日中はたらいている一般的な会社員だという。それなのに、いつも深夜にわざわざ歌舞伎町まで薬を取りに来る。
そうすると、中沢さんは
「残業があってこの時間のほうが都合がいいのか?」それとも
「夜の仕事を掛け持ちでやっているのか?」と選択肢を考える。そこで
「仕事、いつもこんな遅い時間になるの?」と軽く尋ねる。
「そうなんです、忙しくて」
と返されたら、激務でメンタルバランスを崩したのかなと考え、
「いや、ちょっとたまたま」
とボカされたら、夜の仕事なのかなと考え、
それに関連する悩みがあるのかもしれない、と推測していく。
そのようにして人物像を探り、ボールを投げていくことが、相手にとってもこころを開くステップになるのだという。
「自分のことを当てられた」
「わかってもらえた」
と思うと、急に距離感が近くなったり、信頼感が増したりするのは、占いと同じだ。