花束みたいな恋をした』を観た感想

5週連続で興行成績1位を獲得するなど、大ヒットが続いている映画『花束みたいな恋をした』。「本」が重要な役割を果たす本作を、武田砂鉄さんはどのように見たのでしょうか。

前田裕二『人生の勝算』を立ち読みする

映画『花束みたいな恋をした』(脚本・坂元裕二)を観た。山音麦(菅田将暉)と八谷絹(有村架純)の2人によるラブストーリーだが、観る前から、「2人の本棚が気になるはずだよ」との情報、というか通達を数人から受けていた。あらかじめ目を通していた雑誌『ユリイカ』の坂元裕二特集にある、坂元裕二のZoom画面に写り込んでいる大きな本棚には、森達也や佐野眞一の本がかろうじて判別できるくらいだったが、それらのノンフィクション系の本は映画には登場せず、2人の会話には、今村夏子、滝口悠生、柴崎友香、多和田葉子、佐藤亜紀などの作家名が並んだ。

「わたしも穂村弘大体読んでます」「僕も長嶋有はほぼほぼ」といった会話が随所に盛り込まれることもあり、2人の趣味嗜好を知らせる人名・作品名から議論を始めたくもなるのだが、既にその手の分析は繰り返し行われているようなので、むしろ、それ以外の部分を拾いたい。一緒に暮らし始めた2人だが、就職した麦が多忙を極める中、すれ違いが生じていく。そのズレを伝える2つのシーンがある。絹が滝口悠生『茄子の輝き』を読む一方で、麦はパソコンに向かって表計算ソフトをいじっているシーン。書店で文芸誌「たべるのがおそい」を手にした絹が、前田裕二『人生の勝算』を立ち読みしている麦に困惑するシーン。初めて麦の部屋に訪れた日に「ほぼうちの本棚じゃん」と喜んだ絹にとっては、読む本の違いはとても大きなものだった。

浮上してくるEXILE・HIRO

この映画では、繰り返し、「自分(たち)とは絶対に相入れないもの」が描き出される。映画が始まってすぐに登場するのが、絹が人数合わせで呼ばれた西麻布のカラオケ店のシーン。IT系のチャラい男性と若い女性が歌っているのはGReeeeNの「キセキ」で、そこにいた1人の男が「結局、やるかやらないかなんだよ」と言う。この一言に聞き覚えがあったが、ひとまず頭の片隅にしまっておく。やがて、2人が暮らす家にやって来た絹の両親。その父・芳明が、「今僕オリンピックやってるんだけどね」と自慢げに語っていると、スマホが鳴り、「あ、ヒロさんからだ」と口にしてから電話に出る。

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

武田砂鉄さんが選考を担当。災間ニッポンを稀代のコラムニスト10年分のツイートで読み解く。

災間の唄

小田嶋 隆
サイゾー
2020-10-22

この連載について

初回を読む
ワダアキ考 〜テレビの中のわだかまり〜

武田砂鉄

365日四六時中休むことなく流れ続けているテレビ。あまりにも日常に入り込みすぎて、さも当たり前のようになってしったテレビの世界。でも、ふとした瞬間に感じる違和感、「これって本当に当たり前なんだっけ?」。その違和感を問いただすのが今回ス...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

oyoyo_president 若い頃のある時期、『やるかやらないか』になりかけたような気が。でも昔から『ぶっちゃけ』という言葉は大キライです。#武田砂鉄 https://t.co/txzIFqtpch 約1ヶ月前 replyretweetfavorite

elba_isola |武田砂鉄 @takedasatetsu |ワダアキ考 〜テレビの中のわだかまり〜 やるかやらないか。 言いそうだから気をつけようって10年くらい自粛しているやつだ。 こういう映画の見方は面白い。 https://t.co/f1Cbj0KNgd 約1ヶ月前 replyretweetfavorite

fukujing 例の花束の件で、EXILE HIROが東京五輪の文化・教育委員会の委員に選出されてるとか言及する切り口ワロタになった。西麻布的な人たち、って表現拝借しよう。 https://t.co/3SmDIr1pWy 約1ヶ月前 replyretweetfavorite

g18885 純粋な映画の感想かと思いきや思わぬところに着地するの好き 約1ヶ月前 replyretweetfavorite