恐ろしいスクリーンタイム
平均して一日5時間以上、現代人の誰しもが「あるもの」に時間を使っています。5時間以上なんて言われるとほぼ仕事並みの時間量なので、思わずギョッとしてしまうのではないでしょうか。そんな就業時間に匹敵するほどの膨大な時間を、一体わたしたちは何に使っているのでしょうか。
それは、情報の消費です。
情報の消費、なんて言われるとなんだか堅苦しくてピンとこないかもしれません。分かりやすいように具体例を挙げると、多種多様なSNS、ネットニュース、友人や職場からのメッセージ、動画コンテンツなどなど、まさにあなたの毎日を彩るアプリやコンテンツたちそのものです。
現代ではスマホという「禁断の果実」を手に入れてしまったものだから、場所も時間も関係なく、常に情報を受け取り続けることができるようになりました。
「いや、まあ見るけど、中毒なんて言われるほどじゃないよ」
世間では中毒だ依存症だとよく言うけれど、それは自分にはちょっと遠い話のように聞こえる。自分に限ってはキチンと適量に抑えられていると思い込んでいる人がほとんどですが、これがとんだ盲点なのです。
試しにあなたのスマホに付いている「スクリーンタイム」を確認してみてください。近年ではスマホの依存症やコンテンツの毒性が科学的にも証明され始め、社会倫理とも相まって各社が公式の計測機能を提供するようになりました。あなたのスマホは常にトラッキングされており「今日、どのアプリをどれくらい見ていたのか」が数値で丸裸になっています。
今日、何時間スクリーンを見ていたでしょうか。
今まであまり気にしてこなかった、という人は結構ギョッとする時間が表示されているのではないかと思います。大部分の人が4〜5時間、多い人だと7〜8時間なんてことも決して珍しくありません。わたしはIT関係の仕事に就いていたので、初めて自分のスクリーンタイムを見た時は7時間ほどで「これは何かの間違いではないか」と思ったのを今でも覚えています。
一日の自由時間である8時間のうち、7〜8割近い時間をスマホに溶かしていると分かれば、どうしてわたしの英語の勉強が一向に始まらないのかの理由には十分でした。
情報のフルコース
毎日フルコースの料理を残さず食べたら、太るに決まってる。
食事になると当たり前のことだと理解できるのに、それが情報という「目に見えないもの」になった途端、わたしたちの目はくらみます。情報にはカロリーこそありませんが、時間は有限です。読むにも聞くにも、見ることすら一定の時間と意識をもっていかれています。
けれど実際、わたしたちは驚くほどの情報量を律儀に消費し続けています。
朝起きたら、テストがあるわけでもないのに数十分かけてタイムラインに目を通し、動画を見ながら味のしない食事をとります。移動中も休憩中もひたすらニュースサイトやゴシップ情報、謎の健康食品のレビューを横目で見ながら目に飛び込んだ漫画広告をうっかり押してしまいそのまま読みふける……。もはや当初、何をするためにスマホを開いたのかは時空の彼方へ吹っ飛んでいることでしょう。
もちろん、すべての情報が要(い)らないとは言いません。トレンドを追うのが仕事、という人もいるでしょう。話題や交流のきっかけになるネタが欲しい、という人もいるでしょう。娯楽は人間の特権のようなものですし、大半の人が俗世を捨てる気概で臨む修行僧を目指しているわけでもありません。それでも立ち止まって、ちょっとだけ考えてみてほしいのです。
昨日見たニュースや記事、誰かの投稿内容をどれだけ思い出せるでしょうか。
「昨晩、何を見ましたか」「その情報からどんなことを得ましたか」……そう聞かれたら、さっと誰かに要約を伝えられるほど自分の頭に残っているものはあるでしょうか。話のネタや知識として身になっているならまだしも、ほとんどの人が聞き流したニュースや記事の情報を目で追うのが精一杯で、右から左へ受け流し続けていることがほとんどです。
ちょっと表現が乱暴かもしれませんが、これを食事にたとえるなら「毎食フルコースを食べて、その場で吐いている」と言ってもいいかもしれません。これではせっかく貴重な時間をかけて情報を貪り尽くしたというのに、結局自分の中には何も残っていないというのは少々悲しいというか、なんだったのだろうというモヤモヤが残るのではないでしょうか。
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