自分自身の無自覚な暴力性に気づくために

長年DV問題に取り組んでいる信田さよ子さんをお招きし、幡野広志さんと一緒に編集部がDVについて学ぶ連載の最終回です。DV加害者の多くは自分がDVをしていることを自覚していないという問題や、自分自身の無自覚な暴力性に気づくためにはどうしたらいいかを考えていきます。(写真:幡野広志 聞き手:編集部 大熊)

※本記事にはDVに関する描写があることを予めご了承ください。

信田さよ子(のぶたさよこ) 岐阜県生まれ。原宿カウンセリングセンター所長、臨床心理士。病院勤務等を経て1995年に原宿カウンセリングセンターを開設。さまざまな依存症や摂食障害、DVや虐待などに悩む人や家族へのカウンセリングを行っている。近著に「後悔しない子育て」(講談社)「性なる家族」(春秋社)等。

加害者の無自覚性

— 削除した記事については、アップしてから批判されるまで、加害していたという意識が幡野さんにも私にもなかったんです。我々の知識不足や配慮のなさが根本的な原因です。その無意識性って、とても恐ろしいものだと身をもって学びました。DVに限らない話かもしれませんが、加害者の無自覚性についてお伺いしたいです。

信田さよ子(以下、信田) ないないない。DV加害者に自覚なんてない。彼らにとって自分のしていることは当たり前のことだから。「妻がわかってくれるべきでしょ」「なんで僕が説明しなきゃいけないの?」「殴ったのは僕が悪いよ、でもどうして僕を怒らせるんだ?」って、名ゼリフがいっぱいあるくらいなんです。特に「どうして僕を怒らせる」と「君は結婚してから僕に何かしてくれたか?」は定番。彼らはそれが当たり前と思っているから。

幡野広志(以下、幡野) じゃあ、身体的なDVをしていない人はなおさら自覚しにくいですね。

信田 そうですよ。

幡野 大多数の人がDVをしておきながら加害性を自覚していないなら、被害者も被害者性を持てないですよね。たとえば、昭和の……

信田 『巨人の星』みたいなね。DVと虐待の嵐。

幡野 僕、『ドラえもん』が苦手なんです。正直あまり見られない。執拗にのび太を叱る母親と、無関心な父親っていう家庭環境がひどすぎて、学校ではバカにされて、放課後はジャイアンとスネ夫にいじめられる。ドラえもんがいなかったらのび太は生きていけないじゃないかと思う。

信田 やっぱり中立客観で俯瞰して見ていればマンガの話でも、そこの中で生きている子どもの視点で考えると地獄ってことですよね。

幡野 男性側が自分が加害しているかどうかを判断するには、どうすればいいですかね。自分が相手に暴力をふるっていないかとか、自分の行動が精神的・経済的DVになっていないかをチェックする方法とか……。

信田 相手をちゃんと人間として見ているかどうかじゃない?

幡野 そうなんですか。さすがに人間としては見ているような……。

信田 でもね、「女性として尊重している」って言い方をする男性もいるけど、それは逆に女性を下に見ている可能性もありますから。

幡野 あ、人として対等に見てるんじゃなくて、上下関係で見てしまうんだ……。

信田 「下に見ていない」と言ったって、そもそもこの社会で自分が下駄を履かせてもらっているということに気づいていない男性も多いですよね。例えば、男女で同じテストを受けたとしても、東京医大みたいに男性のほうが合格しやすかったりとか……。
※2017年度と18年度の東京医科大学の一般入試で、女子受験生に対する不利な得点操作をされており、本来合格していた55人の女性が不合格にされていたことが発覚した。

— あ—。

信田 入試だって就職だって、男性が優遇されているっていうことに、男性社会だと気づきづらいんですよ。

幡野 そういう意味では、僕も気づいていないことがあるかもしれません。例えば、僕、毎月妻にそこそこの額の生活費を渡しているんです。でもそれだと妻がお金を使いづらいだろうから、妻にも働いてもらっていて。そうすれば、自分で稼いだ分は気にせず使えるかなと思って。これ、思いやりだと思ってましたけど、結局それって僕がそうしてくれって言ってるだけですよね。

信田 思いやりってそういうことですよ。思いやりというのは、強者から弱者への視点ですから。

幡野 僕もどこかで妻のことを弱者として見ているのかもしれないですね。

無自覚な暴力性を持たないためには

— 幡野さんは難病を抱えています。それと私個人の話をすると、子どもが聴覚障害を抱えています。幡野さんも私も、それぞれ社会的弱者ということについて、普段から向き合っているつもりでした。それなのに、無自覚な加害者になってしまった。だから免罪されたいということではなく、だからこそ、無自覚な暴力性を持たないためには、何を意識するべきなのかをお聞きしたいです。

信田 無自覚な暴力性って、車椅子の人に「ここから東京駅に行くのがどれだけ大変かってどうしたらわかりますか?」と質問するようなことですよね。そんなの、車椅子の人からしたら、なんで私がわざわざ教えてあげなきゃいけないんだっていう。

— 確かにそうですね……。

信田 社会学者の岸政彦さんが、マジョリティは普段マジョリティと思わずに生活しているって話を書いていました。加害性と似たような意味ですけど、自分がマジョリティにあぐらをかいていることは、常にマイノリティからの突き上げによってしかわからないと。

幡野 なるほど。

信田 今回の人生相談が炎上したのもその一つで、誠実な対応を積み重ねていくしかないと思います。あるいは、自分の身近にいる弱い立場の人、パートナーと対等に向き合うことで見えてきたり、教えてもらえることがあるかもしれない。

— 先日拝見した信田さんが登壇されたイベントで印象に残っている言葉があって、自身の加害性を受け入れられないDV加害者へのカウンセリングで、信田さんは「自分が嫌な奴であると気づかせる」とおっしゃっていて。やっぱり、自分にだめなところがあることを意識していれば、もっと早く気づけたような気がしたんです。

信田 そう。DV加害者更生プログラムをやっていると、彼らが「俺って本当に嫌な奴ですね」と言い出すことがある。それってすごく貴重な体験だなと思う。最近はオンラインミーティングが増えましたが、自分の話している顔が画面に映るじゃないですか。そうしたら、「自分がこういう話し方をしているの、妻から見たら怖いかもしれないな」っていう感想が出てきたんです。こうやって自分自身で気づけるような機会を作れればいいなと考えています。

— カウンセラーをされている立場から、ウェブ上の人生相談の連載をどう思うか、お聞きしてもいいですか。一度立ち止まって、やる意義を考えるべきなのかと思っていまして。

信田 いやいや、やめることはないですよ。それはやっていただきたいです。萎縮する必要はないですよ。新聞や雑誌の人生相談だって、昔からあるじゃないですか。こんな答えするの!?というものが、むしろ私は必要だと思う。私は私の考えが最適じゃないかって思ってますが、そうじゃない意見もありだと思います。違う意見は認めないという態度はDVと通じますから。多様性は絶対認めるべきですよ。

幡野 確かにそうかもしれませんね。

信田 ウェブで人生相談する意義、あると思いますよ。

— そうですね。同じ失敗は繰り返さないようにしながら。

信田 でも面白いですよね。今回の炎上もだけど、いろいろな反応が見られるでしょう。私たちでは味わえないことですよ。

最大の社会貢献は再生産させないこと

幡野 今日いろいろお話を聞いて、DVについて解決するには、やっぱり自分の子育てをしっかりすることが一番大切なのかなと思いました。当たり前のことだけど、子どもを虐待をしない、虐待をするような大人にさせない。先は長いけど確実かなって。

信田 最大の社会貢献は再生産しないことですよね。私、差別は家族によって再生産されると思っています。子どもたちの集団の中で、外国籍の子や多様なルーツを持つ子がいたときに、からかう子とすごく楽しいって子に分かれるんですが、それは親によるところが大きいんです。

幡野 わかります。

信田 親の無自覚な差別意識が子どもに伝わっている。

幡野 うちの妻は保育園の先生を15年くらいやっているんですが、やっぱり同じことを言います。差別やいじめをする子は結局親が原因じゃないかって。東日本大震災の原発事故で被災した家の子を妻の保育園で受け入れたらしいんですが、入れないでくれ、一緒に遊ばせないでくれっていう保護者がいたそうなんです。今、たぶんコロナで同じようなことが起きてますよね。どこまでも自分と違うものを排除しようとしてしまう。

信田 DVの加害者って、自分の父親もDV加害者だった場合が多いんです。すごい顕著に数字に出るくらい。まずいのは、自分が妻にやってしまったDVと、かつて自分の父親が母親にしていたDVを、本人がつなげて考えていないことです。

幡野 そうなんですか。

信田 その切断が再生産の一番の基だと思う。つながっているとわかっていれば、自分で予防できるんですよ。ただ、多くの男性は自分の成育歴を振り返らないの。

幡野 それって例えば、自分の父親がDVをしていても、嫌だなと思っていないんですか?

信田 それが思っているんです。でもね、思春期に息子の背が父親より高くなると、父親も無理ができないから扱いがやさしくなるでしょう。「一緒に酒飲みたいな」みたいなことを言われると、「そうだね親父」みたいなことになる。特に男性は、ホモソーシャルの一員として、その懐柔が行われてしまう。

— 大人になったから許すことができたんじゃなくて、男性社会に入っていくことで意識が変換されちゃうんですか……。

信田 大人になって、男性社会の一員に組み込まれると、初めて父親のことを理解できたような気持ちになってしまう。

幡野 そうか、父親のことを肯定してしまうのか。

信田 そうです。子どものうちは父親のDVを目の当たりにして、こんな父親は嫌だし、大きくなってもこうはならないといったんは思うんです。だけどそれが20歳くらいで切断されてしまう。過去のことだって断ち切られちゃうんです。

— これって男性特有なんでしょうか?

信田 やっぱり、過去をくよくよ振り返らないとか、弱音を吐かないとか、潔くあるべきとか、そういう「男らしさ」に埋め込まれた価値観があるんじゃないですか。男性は特に過去を振り返ることに抵抗を持ちますね。

幡野 あるかも。でも僕みたいに病気になると結構振り返るんですよね。

信田 弱者になったからこそ、振り返れるってこともありますよね。あとは女性の場合、出産をすると振り返りますね。母はつわりはあっただろうか、母乳は出ただろうか、と。子が生まれてからも、自分はどうやって育てられたかを日々振り返ることになります。

— 私はまさしく過去を振り返らないタイプだったんですが、確かに子育てをやってから、自分がどう育てられたか考えるようになりました。ということは、父親も子育てにコミットするかどうかで、結構違うのかもしれませんね。

信田 そういうことです。

幡野 僕は機能不全家庭に育っているから、父親としての自分の暴力性みたいなものも薄々わかる。結局そこで耐えないと、自分の息子が子どもを育てるときに、同じ苦しさを経験するわけですよね。再生産しないというのは、かなり大事なことですね。

信田 それだけでも大事業ですよ。

— あとはDVも虐待も機能不全家庭も、包括的に支援できる社会の仕組みがあるといいですね。

幡野 今日はすごく勉強になりました。

— 本当に、お話できてよかったです。ありがとうございました。

(終わり)

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この連載について

初回を読む
現在のDV問題について、カウンセラーの信田さよ子さんに伺いました

幡野広志

2020年10月19日に公開した幡野広志さんの人生相談連載内容をきっかけに、幡野さんとcakes編集部はDVに関する勉強に取り組んでおります。この連載では、長年DV問題に取り組んでこれられたカウンセラー(臨床心理士・公認心理師)の信田...もっと読む

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Axel_Nico https://t.co/I5HUPK3c0N 信田 「差別は家族によって再生産されると思っています。 子どもたちの集団の中で、外国籍の子や多様なルーツを持つ子がいたときに、からかう子とす… https://t.co/m0eKQJD1I0 12分前 replyretweetfavorite

yukke64 ー自分がマジョリティにあぐらをかいていることは、常にマイノリティからの突き上げによってしかわからないと。 https://t.co/XCAByTIhLI 2日前 replyretweetfavorite

yamano7kanata https://t.co/UOj5Ok7XDs 16日前 replyretweetfavorite

petitpui |現在のDV問題について、カウンセラーの信田さよ子さんに伺いました|幡野広志|cakes(ケイクス) 気になるエッセンスが詰まっている対談だった https://t.co/Rg42R0SReG 17日前 replyretweetfavorite