専門家にお話を聞いて知った、現在のDV問題

2020年10月19日に公開された幡野広志さんの人生相談連載内で、相談の内容を「嘘」や「大袈裟」と決めつけることで、相談者の方はもちろん、多くのドメスティックバイオレンス被害者の方を傷つけてしまいました。また、多くの被害者が、その相談を信用されないという問題を助長してしまいました。
その後、幡野さんとcakes編集部はともに深く反省し、問題に向き合い、DVに関する勉強に取り組んでおります。この記事では、長年DV問題に取り組んでこられたカウンセラーの信田さよ子さんをお招きし、問題を起こしてしまった記事についてご意見をいただきました。また、DVの問題をより多くの人に知っていただくため、全4回にわたってDVについて様々なことお聞きしていきます。聞き手は幡野さんのcakes連載担当の大熊です。(写真:幡野広志)
※この連載は全て無料で読めます。

※本記事にはDVに関する描写があることを予めご了承ください。

信田さよ子(のぶたさよこ) 岐阜県生まれ。原宿カウンセリングセンター所長、臨床心理士。病院勤務等を経て1995年に原宿カウンセリングセンターを開設。さまざまな依存症や摂食障害、DVや虐待などに悩む人や家族へのカウンセリングを行っている。近著に「後悔しない子育て」(講談社)「性なる家族」(春秋社)等。

DVと虐待の間に発生してしまう溝

— 幡野さんとDVの問題について学んでいる中で、先日信田さんが出演されていたDV加害者更生プログラムに関するイベントを幡野さんと一緒に拝見させていただきました。DV加害に加担し、さらに二次加害になる記事をアップしてしまったことについて、反省して次に進むためには、まずは幡野さんと連載を担当している私で、一緒に信田さんにお話を伺うべきだと考えました。本日はよろしくお願いします。

幡野広志(以下、幡野) よろしくお願いします。

信田さよ子(以下、信田) はい、よろしくお願いします。

— 今回信田さんには、幡野さんが最初に書いた原稿を読んでいただきました。まず、率直な感想をお聞きしたいです。

信田 率直に言うと、ものすごく個人的な思いが入りすぎているように感じました。今回幡野さんの本も読んで、その率直性が人気のもとなんだと思ったんだけど、それにしても個人の思いが噴出しすぎている。

幡野 僕の思い、ですか。

信田 私に求められている役割って、きっとお説教することですよね。でもそんなのは意味がないと思っています。だから正直に感じたことを言うと、DVを受けているであろう相談者に対して「嘘」「大袈裟」「盛ってる」と答えていたのを読んだときは、「幡野さん、何かあったんですか?」という気持ちになりました。

幡野 今は相談者の方と何度も話しているので、全くそうは思っていないんですが、相談文を読んだときに大袈裟だと感じたのは事実です。「そんな10対0で相手が一方的に悪いなんてこと起きるかな」と。それで原稿の後半に書いていたんですが、嘘だった場合、子どもに良くない影響があると考えてしまったんですね。

信田 うん。たぶん、お子さんのほうに気持ちが寄ってしまったんですよね。

幡野 これは僕のすごく悪いところだと自覚したんですが、僕自身が機能不全家庭で育ったこともあって、虐待がすごく嫌いなんです。だけどそれが元で相談者の女性が嘘をついていると決めつけてしまい、彼女がDV被害者であることに全く目がいかなかった。

信田 実はその幡野さんの反応ってすごく示唆的なんです。2018年と19年、目黒区と千葉県野田市で立て続けに小さい子の虐待死の事件がありましたよね。実はこれらの事件で、虐待だけじゃなく、父親から母親へのDVもあったことがわかっています。この事件をきっかけに、いままさに虐待とDV両方の支援機関が連携を取れるよう国が取り組んでいて、私はその委員をやっているんです。

幡野 そうだったんですね。

信田 もともと2000年に児童虐待防止法ができて、2001年にDV防止法ができたんですが、そこで問題が起きました。夫のDVから子どもと一緒に逃げてきた母親に対して、児童相談所の職員がすごく冷たくあたったんです。

— え、それはなぜですか?

信田 児童相談所の職員は、幡野さんと同じで子どもの視点で見てしまうんです。これはあとで話そうと思いますが、残念なことに、DV被害者の母親のなかには子どもを虐待している人が少なくない。だから、あなたDV被害者だって言うけどこの子たちどうするの?とか、なんで子どもにそんな言い方するの?とか、あなたお母さんでしょ!みたいなことを言ってしまう。目黒と野田の事件でも、似たような状況があったと言われています。

幡野 それはまさに僕が相談者の女性にしてしまったのと同じ反応ですね……。

信田 でもこれは日本だけでじゃなく、アメリカでもカナダでも起きている普遍的な問題なんです。あるカナダの先生が、アメリカでDVと虐待に関する研修をやったとき、大きな会場の真ん中にサーっと一列空席ができていたんです。それの片側が虐待支援関係者、もう片側がDV支援関係者だったっていう。そんな可視的な溝さえあった。

幡野 自分がしたことの言い訳をしたいわけじゃないんですが、虐待被害者を支援している人はDVに疎くなって、DV被害者を支援している人は虐待に疎くなってしまうことがあるってことですか……?

信田 そうなの。

幡野 しかもその2つはだいたいセットで起きているんですよね。

信田 そういうことです。昔に比べると随分連携が取れるようになってきたけど、まだ過渡期ですね。目黒と野田で亡くなった子たちは、DVと虐待の支援の谷間に落ちてしまったと私は思っています。

被害者に言ってはいけないこと

信田 だから私はあの回答を読んで、「個人的な」と言ってしまったけど、やっぱり子どもたちに対する思い入れだけが強すぎるって感じましたね。それとDVというのは、死に至るような身体的暴力の被害者はやっぱり9割以上が女性なので、フェミニズムと親和性が高いんです。

幡野 なるほど。

信田 私自身もフェミニストだと思っていますが、フェミニズムってどうしても加害者は黒、被害者は白となりがちです。それはフェミニズムだけの問題じゃなくて、運動としてやっていくためには必要なことでもある。でも、私は幡野さんのあの回答がいいとは思わなかったけど、個人的には謝ればそれでいいんじゃないかと思います。

— 担当編集者としても正直なことを話しますと、連載開始から2年以上幡野さんの原稿を読んできて、幡野さんが他で書いたものも読み、直接対話もして、意を汲み取りすぎてしまうところがありました。記事が出て最初に少し反論の声が出てきたときも、子どものことを見過ごしていいの?という反発する気持ちがあったんです。でもそれは、編集者として持つべき冷静な視点を失っているし、何より先ほどのDVと虐待の谷間の話と同じで、DV被害者側に対して配慮のなさすぎる、編集者として出すべきではない記事だったと思いました。

信田 そうですね。実際私もカウンセリングで、絶対この人子どもを虐待してるな、っていうDV被害者を日常的に見ているから、気持ちはわかるんですよね。

— ただ、それを本人に言うのと言わないのではかなり違いますよね。例えば信田さんは本人に「虐待していませんか?」と聞くことはないですよね。

信田 そうですね。言わない。

— 何より、今回の相談者が子どもを虐待していたわけではないですし。やはりあの記事を出してしまったことは、編集者としても絶対にやってはいけないことだったと深く反省しています。

依存症とDVと虐待の密接な関係

— もともと依存症の専門家でいらっしゃった信田さんが、なぜDVに取り組むことになったのかお伺いしたいです。

信田 私は1970年代から、アルコール依存の治療をしている精神科の病院で心理士として働いていました。当時は「依存症」という言葉もなくて、「慢性アルコール中毒」と呼んでいました。今思うと、第二次大戦から命からがら帰ってきた男性患者が多かったんですね。

幡野 え、なんでですか?

信田 普段お酒を飲むようなこともなかった人たちが召集され戦地(当時の満州)に行かされて、明日敵がやってくるからそいつらを倒せと毎日言われるんです。恐怖から震えて眠れないと、上官から、現地で生産された高粱酒(コーリャンしゅ)というアルコール度数の高いお酒を飲まされる。吐きながら飲んだのがきっかけで常習的に飲むようになったという人が多かった。

幡野 それで酒を覚えてしまったんですね。

信田 そう、戦争とアルコールは密接な関係があるんです。それから80年代に入りアルコール依存症という言葉が誕生しましたが、妻たちを中心とした「家族会」にも仕事でかかわるようになりました。そこで話を聞いていると、片方の耳が聞こえない奥さんがいっぱいいたんですね。酔ったアルコール依存の夫に顔を殴られて鼓膜が破れた後遺症だったんです。

幡野 ええ……。

信田 当時はそういう女性がいっぱいいて、それでアルコール依存症の男性が、家庭の中でどんな行為をしているのかを知ることになりました。

幡野 まさしくDVにつながるんですね。当時はやっぱり身体的暴力が多かったんですか?

信田 そう。家族がみんな父親の暴力に晒される。そして、DVされた妻が子どもを虐待しはじめることがわかってきたんです。さらに、虐待された子どもには家庭内暴力や不登校が多いこともわかってきた。だから、日本でDVの存在に一番早く気がついたのはアルコール依存治療の関係者だったんですよ。依存症、DV、虐待、あと性暴力も、必然的にセットでつながってくるんです。

幡野 実は僕も、以前から児童虐待について取材していて、確かに機能不全家族の再生産なんですよね。

信田 「機能不全家族」という言葉も、アルコール依存が元なんですよ。80年代にアメリカで、アルコール依存の親がいる家族を語るときに「dysfunctional」と呼んでいたのを、そのまま「機能不全」と訳して輸入したんです。今は一般用語として定着しましたよね。私個人の認識では、アダルトチルドレンの問題も生きづらさの問題も、多くはアディクション(依存症)治療の関係者が広めたと考えています。

(続く)

次回「社会的評価が高い人がDVをする心理」は2/17(水)更新予定。

この連載について

現在のDV問題について、カウンセラーの信田さよ子さんに伺いました

幡野広志

2020年10月19日に公開した幡野広志さんの人生相談連載内容をきっかけに、幡野さんとcakes編集部はDVに関する勉強に取り組んでおります。この連載では、長年DV問題に取り組んでこれられたカウンセラー(臨床心理士・公認心理師)の信田...もっと読む

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コメント

mentalhealth_we https://t.co/LvwCi09jQN アルコールと暴力。松本俊彦精神科医が見るべきです。 1日前 replyretweetfavorite

hoshinami629 マストドンで知ったんだけど、この記事…そうか… 2日前 replyretweetfavorite

enemiti 「だから正直に感じたことを言うと、DVを受けているであろう相談者に対して「嘘」「大袈裟」「盛ってる」と答えていたのを読んだときは、「幡野さん、何かあったんですか?」という気持ちになりました。」 https://t.co/ac6IUtLxmr 4日前 replyretweetfavorite

utagech DV支援と虐待支援が両立させづらいってあんまり考えたことなかった 4日前 replyretweetfavorite