登場人物紹介
僕:数学が好きな高校生。
ユーリ:僕のいとこの中学生。 僕のことを《お兄ちゃん》と呼ぶ。 論理的な話は好きだが飽きっぽい。
僕の部屋
いまは土曜日。
ここは僕の部屋。
僕とユーリはいつものように数学のおしゃべりをしている。
ユーリがノナに三角関数を教えようとしたという話題に始まって、$\cos, \sin, \tan$について話していた。
いまはちょうど、 $$ \tan{\theta}\tan(\KAKUDO{90} - \theta) = 1 $$ の証明が終わったところ(第311回参照)。
ユーリ「ほらね! ユーリは三角関数カンペキでしょ? お兄ちゃんの出す問題なんか、全部わかっちゃうよ!」
僕「そりゃすごいな。でも確かにユーリは、$\tan$の定義もちゃんとわかっているし、 $\tan\KAKUDO{30}, \tan\KAKUDO{45}, \tan{\KAKUDO{60}}$の値も、きちんと考えているよね」
ユーリ「ふふん。単位円を描けばすぐわかるもん。三角関数カンペキさ!」
僕「じゃあ、ちょっと違うクイズを出してみようか」
ユーリ「どんとこい」
関数$\cos\theta$の定義域と値域
僕「ユーリは$\cos,\sin,\tan$を三角関数だって言ってたよね。関数というからには定義域は何だろう」
ユーリ「わかんない」
僕「がく」
ユーリ「あっ、ちがうちがう。答えがわかんないんじゃなくて、お兄ちゃんが何を言ってるかがわかんないの!」
僕「関数っていうのは、数を何か与えると、数が得られるものだよね。まあ、数じゃないこともあるけど」
ユーリ「えーと?」
僕「うん、じゃあ、たとえば、関数$\cos$で具体的に話そうか。角度$\theta$を$\cos$という関数に与えると、数$\theta$に対応して単位円上の点の$x$座標という数が得られるよね。 いま角度は《度》で考えているから、$\cos$に$60$を与えると、$0.5$が得られるという具合に」
関数$\cos$に$60$を与えると$0.5$が得られる
※角度は《度》で考えています。
ユーリ「それって、$\cos\theta$の定義の話、してる?」
僕「そうだよ」
ユーリ「$\cos$に$\KAKUDO{60}$を与えると$\frac12$だから$0.5$が得られるって?」
関数$\cos$に$\theta$を与えると$x$座標の値が得られる
僕「そうそう、そういう話。そのとき、いま考えている関数$\cos\theta$では、$\theta$として与えることができるのは実数だよね」
ユーリ「そだね。数だから」
僕「数といってもいろいろある。たとえば$\theta$に虚数の$i$を与えることは、いまは考えていない。考えているのは実数だけ」
ユーリ「ほほー。虚数の角度?」
僕「$\theta$を虚数にするという話は、それはそれでおもしろい話につながるけど、いまは実数だけを考えている」
ユーリ「そんで? お兄ちゃんは何が言いたいの?」
僕「関数を考えるときには《その関数に与えることができるのはどんな数なのか》をきちんと決めておく必要があるという話だよ。$\cos\theta$の$\theta$に対して$\KAKUDO{0}$を与えてもいいし、 $\KAKUDO{30}$を与えてもいいし、もっと大きな数やもっと小さな数を与えてもいい。 $\KAKUDO{100}$とか$\KAKUDO{360}$とかね」
ユーリ「$\KAKUDO{3000}$とか」
僕「そうだね。それからマイナスでもいい。$-\KAKUDO{60}$とかね」
ユーリ「いーよ」
僕「つまり、僕たちはいま$\cos\theta$という関数の定義域を、実数全体の集合だと考えているわけだ」
ユーリ「てーぎいき」
僕「そう。$\cos$という関数に与えることができる数全体の集合を、関数$\cos$の定義域という。いま僕たちは、関数$\cos\theta$の定義域を実数全体の集合だとして考えていることになる」
ユーリ「ねえ……お兄ちゃん。それって簡単な話をややこしく言ってる?」
僕「そうじゃないよ。簡単な話を正確に言ってるんだ」
ユーリ「はいはい」
僕「ユーリは《実数全体の集合》といわれて、ピンと来てるよね?」
ユーリ「だいじょーぶ。数直線でしょ?」
僕「うん、それでいいよ。数直線は実数全体の集合だと考えることができるし、 一つ一つの実数は数直線上の点として考えることができる。 実数全体の集合のことは$\REAL$と書くこともある」
ユーリ「はいはい。そんでそんで?」
僕「それが$\cos\theta$の定義域。それに対して、$\cos\theta$の値域というものもある」
ユーリ「ちいき」
僕「そう。関数$\cos\theta$がとる値全体の集合のことを$\cos\theta$の値域という。$\cos\theta$の値域って、具体的に何だかわかる?」
ユーリ「わかんない」
僕「がく。『そのスピードは考えていない証拠』ってミルカさんに言われたことなかったっけ?」
ユーリ「ぐぬぬ。ミルカさまを出してくるなー!」
僕「$\cos\theta$の値域って、具体的に何だかわかる?」
ユーリ「えーと? ……結局$\cos\theta$って、点の$x$座標だよね?」
僕「そうだね。$\cos\theta$の定義から、単位円の円周上にある点の$x$座標だといえる」
ユーリ「だったらカンタン! ぐるっと回るから、$-1$から$1$までの範囲だ。 こーゆーこと!」
僕「そうだね。ユーリはちゃんとわかってる。関数$\cos\theta$の値域は《$-1$以上で$1$以下の実数全体の集合》になる。 関数$\cos$の値域は、数式を使ってこんなふうに書くこともできる」
$$ \SET{x \SETM -1 \LEQ x \LEQ 1 } $$ユーリ「あ、そーゆーの見たことある。お兄ちゃん、よく書くよね」
僕「そうだね。$x \in \REAL$と書いて、実数であることをはっきりと書いてもいい」
$$ \SET{x \in \REAL \SETM -1 \LEQ x \LEQ 1 } $$ユーリ「いろんな書き方あるんだね」
僕「関数を考えるときには、もう一つ、終域(しゅういき)という集合を考えることがあるけれど、それはまた今度話をしよう」
ユーリ「いま一瞬、テトラさんが見えたよ」
僕「それはさておき、定義域と値域のクイズを出そう。いいよね」
ユーリ「いいよん。理解したから大丈夫!」
関数$\sin\theta$の定義域と値域
僕「僕たちが考えている関数$\cos\theta$の定義域は《実数全体の集合$\REAL$》で、値域は《$-1$以上$1$以下の実数全体の集合》だったよね」
ユーリ「それ、さっきやった」
僕「それじゃ今度は、関数$\sin\theta$の定義域と値域は?」
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この連載について
数学ガールの秘密ノート
数学青春物語「数学ガール」の中高生たちが数学トークをする楽しい読み物です。中学生や高校生の数学を題材に、 数学のおもしろさと学ぶよろこびを味わいましょう。本シリーズはすでに14巻以上も書籍化されている大人気連載です。 (毎週金曜日更新)