「結婚前に同棲をした方がいい」という意見って、昔からありますよね。
その理由として、「一緒に住まないと分からないことがたくさんある」ということがよく挙げられます。この「分からないこと」って、だいたい短所のことだと思うんですよ。
「ケンカになると絶対に自分からは折れてくれない」とか、「休みの日にずっと家でのんびりしてる」のように、相手の気に入らない部分が目につくようになってくる。
今みたいなコロナ禍では、外に出かけて新しい刺激を求めづらいので、悪い点ばかりが目立ってしまうこともあるでしょう。
だからといって、その欠点について「お願いだからなおしてよ」と言っても、人はそんな簡単に変われるものではありません。
結局イライラは募るばかり。別れようかと思うことにもなるかもしれません。でも少しだけ待ってほしいんです。そんな気持ちになってしまったときに、思い出してほしい話を今回はしたいと思います。
ソムリエはワインの悪口を言わない
レストランサービスをする上で欠かせないパートナーが、ワインです。美味しい料理をさらに生かすことも殺すこともできてしまう、そういう存在です。
皆さん、ワインを飲んで「これ、美味しくないな」って思ったことはありますか? 正直なことを言うと、僕は結構あります。
ワインというのは、多くの作り手がそれぞれ独自の工夫をこらしてつくっています。だから、自分の口に合わないものと出会うこともあるんですよね。僕みたいに仕事で年間に数百種類以上飲んでいれば、なおさら苦手な味のワインに触れる機会は増えます。
でも「ソムリエ」としての僕は、「このワインは美味しくない」とは言いません。ましてや「マズい」なんて口にすることは決してありません。
ワインの原材料はブドウだけですが、果汁を放置していれば勝手に生まれるという性質のものではありません。そこには多大な人の手がかけられていて、ありったけの人の想いが込められています
つまり、ワインは農家さんにとっては我が子のようなものと言ってもいいかもしれません。そういう商品であるワインに対して、ワインのナビゲーターであるソムリエが、けなすような言葉をかけるのはなんだか気がすすまないのです。
でもワインの中には、お客様に受け入れられづらい味のものがあります。たとえば極端に酸っぱいとか、すごく渋いとか、ですね。出すお客様を間違えると「何この美味しくないワイン」と言われてしまいかねません。
あるとき、輸入会社の営業マンが有機農法でつくられたワインを持ってきました。試してみると、味はすごく厚みがあって余韻も長く、美味しいと感じられました。ですが、ワインを飲んでいる僕の中に、明らかに生まれてきた言葉がありました。
そのワイン、臭いんです。
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