共感、感情移入するストーリーの秘密

誰もが発信する時代に、作品に興味をもってもらい、感動を生み出すストーリーの作り方を紹介するこの連載。第5回は、「共感」「感情移入」「没入」についてです。いずれも人の心を動かすストーリーには不可欠なものですが、どういう時に私たちはストーリーに感情移入したりするのでしょうか?

ストーリーで人の心を動かしたいと思うとき、キャラクターへの共感や感情移入、ストーリーへの没入は必要不可欠なものと言えるでしょう。しかしながら、ストーリーで「共感、感情移入、没入」をさせたいと多くの作り手が思ってはいるものの、それが何なのかを考えたことがある人は少ない気がします。どうやったら共感や感情移入を起こせるのか? そのためには構成やキャラクターの作り方を学ぶことはもちろん、根本的な意味で人の心の動きまで知る必要があると私は考えています。

この章と次章で、そういった心の動きに関して考察していきますが、そもそも検証がむずかしい領域ではあるので、厳密な定義にこだわり過ぎず、自分の体験と照らし合わせながらイメージしてみてください。

まずキャラクターに対する「共感」「感情移入」を考えていきますが、これらの違いはなんでしょうか?「共感」と「感情移入」は、辞書によっては同義と捉えられることもありますが、私は少し区別して使っています。「共感」は簡単に言えば「そのキャラクターの感情を理解できるかどうか」です。つまりキャラクターが感じる喜怒哀楽といった感情を、情報としてではなく、自分が過去に体験した感情と照らし合わせて理解できるかどうか。一方で「感情移入」はもう一歩踏み込んだ状態です。敵対者などの悪役に対してその感情を理解はできるけど「感情移入」まではできないことってありますよね? 感情を理解したうえで、その感情を自分ごとのように感じるのが「感情移入」です。

この「感情移入」は、ストーリーが進む中でキャラクターが抱く感情が、見る人にとっての切実な問題ともリンクしているときにたどり着く状態と私は考えています。自分が抱えている何か切実な問題があって、自分をそのキャラクターに投影してしまう状態です。それゆえ「感情移入」は楽しいことばかりではなく、時には辛い感情を共有することもあります。

ここで重要なのは、切実な問題というのが、お金がないとか迫り来る障害を乗り越えられないといった外的な問題ではなく、キャラクターが抱える精神的な問題であることです。さらに言えば、頭(意識)で把握できているような問題ではなく、まだ自分の中では言語化したり整理できていない心(無意識)の課題との結びつきが重要だと私は考えています。この「精神的に切実な課題」を、私は「内的CQ」と呼んでいます。


内的CQと向き合う事で主人公は再起する

「はたして主体は目的を達成できるだろうか?」という言い方で第1章から繰り返し説明してきたCQ(セントラル・クエスチョン)は、基本的には「目に見える外的な目的」を指しています。たとえば「全国大会で優勝できるだろうか」とか「敵を倒すことができるだろうか」といった具体的な目標です。

一方で内的CQというのは目に見えない精神的なものになります。たとえば「仲間から認められたい」とか「金銭的な価値観から脱却したい」といったものです。以下、内的CQと区別するために、もともとCQと言っていたものを外的CQと表わしますが、この外的CQと内的CQは相互に関係するものでもあります。たとえば、以下のようなストーリーを考えてみましょう。

外的CQ:はたして主人公はサッカーの大会で優勝できるだろうか
障害:優勝するためには、主人公とチームメイトの結束が必要
内的CQ:プライドを捨ててチームメイトに弱みをさらけ出せるか

このような形で、外的CQを達成するために主人公が克服しなければならない精神的な課題が、内的CQとして提示されることが多いのです。ちなみに、この内的CQはストーリーの序盤には主人公本人が自覚していないことも多いです。たいていの場合、ストーリーのボトムに来たときに、主人公は自らの内的CQに向き合うことになります。そして、外的CQが果たせそうにないどん底になって初めて何かしらの気づきを経て、内的CQを克服する、あるいはそのきっかけをつかみ再起するのです。


感情移入とは内的CQと作品を見る人の接点のこと

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人の心を動かすストーリーの作りかた入門

たちばな やすひと

誰もが発信する時代に、どうやって自分の作品に興味をもってもらい、見る人の心を動かすことができるのでしょうか? 人はどんなストーリーに惹きつけられ、どういう時に感動するのでしょうか? Netflix『全裸監督』はじめ、数々の映画・ドラマ...もっと読む

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tamatebako_kou 感情移入、没入する回数では昨今の方が昔に比べて多い。特に海外作品の映画やドラマはすぐにそうなる。■ 約2ヶ月前 replyretweetfavorite