「人間の眼は舌に負けないくらい会話する」
このコロナ禍では、目の前にいる人が基本的にマスクをしている。会話をすれば、機嫌はおおよそ読み取れるものの、言葉を発する前の段階では、どうしても眼から表情を読み取ることになる。コロナ以前は、電車の中でラジオを聴いているのか、口元のニヤケをおさえられずにいる表情の人を見るのが好きだったのだが、あの表情からもう1年近く遠ざかっている。俳優の演技が賞賛される時って、口元よりも眼の動きで語られることが多い。正直、「とにかく眼の演技がすごかった」と言っておくと、それっぽくなる、という便利さがある。
サイモン・イングス/吉田利子訳『見る 眼の誕生はわたしたちをどう変えたか』(早川書房)には、ラルフ・ウォルド・エマーソンによる「人間の眼は舌に負けないくらい会話する」との弁を紹介した上で、眼による意思疎通を考察した章がある。「人間の眼は目立つように作られているし、視線の方向は感情的な意味を伝えることができる」「伏目は悲しみを表わし、下を向いて視線をそらせば恥や罪悪感が示されるし、目をそらすのはフラストレーションや嫌悪のサインと見ていい。眼をただ大きく見開くと、ほかの表情とあいまって衝撃から性的興奮、疑いまで、さまざまな感情を表わせる」とのこと。ただ、それらは、あくまでも顔全体が作り上げる表情の中で、眼が主たる意味を担っている、ということであり、やっぱり眼だけでは伝わらないよね、というのが、マスク生活の実感ではある。
感情の伝達を大きな眼に任せる斉藤
ジャングルポケット・斉藤慎二は、いつだって、とにかく眼の動きが過剰である。もともと大きな眼を、さらに思いっきり見開くので、眼に注目がいきやすい。そのことを自覚しているはずの斉藤は、感情の伝達を大きな眼に任せっきりにする。自信満々な表情を貫き、周囲を動揺させていく。さほど意味がないやりとりであっても、明確に感情を伝えなければならないやりとりであっても、同じように眼を見開く行為で自分の意思表示を終える。そこで発生した周囲のザワザワを放置してみせるのも、斉藤の特性である。
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