彼がわたしを初めて抱いた時のことは、正直お酒のせいであんまり覚えていない。
その時のわたしは、お酒を飲んで流されるままにどんな男の人とでもセックスできるどうしようもない女だったし、男の人だってその場限りの女とのセックスなんて挿れて、揺すって、出すだけだと思っていた。
その日、朧気ながらに覚えているのは蕩けそうな色をした彼の目。
それから、先端をきゅっと摘まれて、焦らすように腰を撫でられたこと。感触を確かめるみたいなキス。わたしの好きな香水の香り。
その場限りの関係ばかりだったわたしには、彼のセックスの全てが狂おしいくらい優しく見えた。
「昨日のこと、っていうより俺のこと覚えてる?」
「...まさと、くん。」
下半身に残る重怠さで目が覚めて、その時に聞かれた質問と 正解、と言わんばかりの嬉しそうな顔。
セックスした人の下の名前を覚えたのはこれが初めてだった。
「慣れてないんだね。」
わたしが誰でもいいタイプの人間だということを分かっているくせに、こんなことを言う人も初めてだった。