新大久保の韓国料理屋。憧れの人が目の前にいた。
テレビで見たとおりだ。ここに来るまでの間も、まるで予習をするみたいに電車の中でyoutubeを見ていた。
彼は特別な仕事をしていた。
そんなに有名ではないけれど、でも何度もテレビで見たことがある。
SNSのDMで応援メッセージを送ったら返事が来て、飛び上がるほど喜んだ。
調子に乗って「会いたいです」と送ったら「◯日ならええけど」と返ってきて、夢と現実の間を漂うままにその日が来た。
「好きなん頼みや」と彼は言った。
テレビで聴くのと同じ声。 けれどテレビよりもクールで静かだった。
「何歳なん?」と言われて年齢を答えると「あれ?思ったよりいってんなあ」と笑った。
SNSに載せる写真はだいたい盛れていて若く見える。騙したようで申し訳ない気持ちになった。
浮かれていた私はたくさん話してたくさん飲んだ。
にこにこして静かな方がいい女だってそんなの分かっていたけど、ある程度大人だから分かっていた。
今夜の自分の立場を。
私は今夜、「にこにして静かないい女」として呼ばれたわけじゃない。
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