悪かったわね、純情で。
心の中で啖呵を切ったのももう数年前になる。 あの人が言った通り、その後私は色んな男に抱かれて、 色んな想いに折り合いをつけて笑える大人になった。
出会ったのは二十歳の頃。
勉強漬けの日々が終わって大学生になり、突然“自由な時間”に投げ出された頃。
自分のやりたいこと、好きなことを何だってやっていいと急に言われても、 何をしたらいいのか分からなかった。
酒を飲み、なんとなく煙草を吸って、好きな音楽をただ聴いていた。 クラブに行き始めたのもその頃だった。
自分のiPod classicに入っていない、20年近く昔の音楽で各位に踊る人々。 スピーカーから身体に響く低温、きらきらと回るミラーボール。
違う世界に住んでいる人とでも、1度乾杯してしまえば友達になれる異空間。 知らなかった世界に一気に出会えてしまう場所。
ハマってしまうのに時間はかからなかった。
仲間内でのたまり場になっていたミュージックバーで飲んだ後、 バーの常連さんたちと皆でオールナイトのイベントに遊びに行くことになった。
細身で背が高くて、いつもヘラヘラ笑いながらレコードでハウスをかけている10歳上の酔っ払いもそこにいた。
いつも適当なことしか言わないように見えて、音楽の知識に関しては膨大で、掴みどころがない分もっと中身を知りたくなる。何より選曲が良い。
最初は単なる興味だった。
初めて足を踏み入れた大きいナイトクラブ。 大音量の四つ打ちと乱反射するレーザービームの中、気付いたら隣で酒を飲んでいる彼の横顔を眺めつつ、酩酊状態の中ふと思った。
今日なら処女を捨てられるかもしれない。
誰にも愛されたことが無かったし、誰かを愛したことも無かった。 ただ、暇と性欲を持て余すのはどこの女子大生も同じだと思う。 他人と繋がるという未知の快楽に興味があった。
朝の5時頃イベントがクローズして、私と彼は自然と手を繋ぎ、道玄坂を下っていった。
「帰れる?」
「飲み過ぎてしんどいです、帰れないかも」
「じゃあ、うちくる?」
真夏の朝方、既に街は眩しい。 交差点で想像通りのやり取りをして、私たちはタクシーに乗り込んだ。
眠気で頭はぼんやりするものの、やけに意識ははっきりしていた。
これから私は恐らく、初めてのセックスをする。
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