​簡単な解決策がない時のセルフケア

新型コロナウイルスの流行や頻発する抗議デモなど、世界中の国々が不安定な時期にある昨今。自分にできることが限られ、嵐が去るのをじっと耐えなければならなくて辛い時は「セルフケア」を試してみてください。自分を大切にするための方法を、アメリカに在住する作家・渡辺由佳里さんが語ります。

最近連載を休んでいるが、それには理由がある。非常に手間がかかる本の作業をしていることもあるが、最大の理由は、アメリカの大統領選が目前に迫っていることだ。

これまでにいくつもの場所で書いたが、アメリカは新型コロナウィルスのパンデミック対策の失敗ブラック・ライブス・マターの抗議デモなどで揺れ動いている。追い打ちをかけるように連邦最高裁判事ルース・ベイダー・ギンズバーグが亡くなった。女性やマイノリティの人権、平等と自由のために戦ってきたギンズバーグ判事は、特に女性や若者に絶大な人気があり、アイコンになっていた。亡くなる前に孫娘に「新しい大統領が就任するまで、私の後任人事が行われないよう、激しく切望する」という声明を伝えたにも関わらず、上院の多数派である共和党はトランプ大統領が指名した候補を強行的に採決しようとしている。

その女性候補エイミー・コニー・バレットはカトリック保守派の信者で、「People of Praise」という集団に属しているらしい。この集団は「女性は男性に従属するべき」という信条を持っており、女性のリーダーは「侍女(handmaid)」と呼ばれる。そのためか、マーガレット・アトウッドの有名なディストピア小説『侍女の物語(Handmaid’s Tale)』のモデルになったという噂も流れた。

『侍女の物語』の舞台は、キリスト教原理主義のクーデターで独裁政権になった未来のアメリカ合衆国だ。白人至上主義で、徹底した男尊女卑の社会である。国民は男女とも厳しい規則で縛られ、常に監視されている。環境汚染などで女性の出産率が激減しており、子供が産める女性は貴重な道具として扱われる。不倫や堕胎をした女性は罪人であり、出産可能だとみなされたらすでに妻を持っている司令官に、子供を生むための「侍女」としてあてがわれる。

噂は事実ではないようだが、それを連想させるカルト的印象があるのは事実だ。共和党は、新型コロナウィルスに罹患したばかりの議員までもが公聴会に参加し、トランプ大統領の任期中に連邦最高裁判所を6対3で右寄りにしようとしている。そうなれば、中絶や同性結婚が違法になる可能性もある。また、右派は気候変動に否定的な傾向があり、環境汚染がさらに進むことも危ぶまれる。

そして、11月3日の大統領選挙と連邦議会選挙の結果次第で、アメリカは対立や暴動がますます進むかもしれない……。

そんな暗い思いが毎日頭の中を占めているので、(新聞は読むが)テレビを観ることができないし、大統領選や政治について書くことがなかなかできないでいる。書くためには深く考えなければならないが、そうすると精神状態が暗い泥沼に沈んでしまうからだ。

辛いからといって社会状況から目を背けるべきではないとは思っている。恐ろしいことが次々と起こるために心理的に麻痺してしまい、「いつものことだ」と見過ごし受け入れるようになる。そういった「邪悪の正常化」の典型的な例が、ユダヤ人を大量虐殺したナチスドイツだった。「邪悪の正常化」に手を貸してはならないので、個人としての自分ができること(この場合には、投票の重要さを多くの人に呼びかけるとか、自分自身が投票するとか)はどんどん実行するべきだ。しかし、悩んでも何の効果もないことでくよくよ悩むのは、百害あって一利なしだ。数年前に自分で書いたことだが、ときには、嵐が過ぎ去るまで耐えるしかないこともある。

こういう時に大切なのは、自分自身の心と身体の「セルフケア」だ。

落ち込んでいるのは私だけではないようで、セルフケアについていろいろな記事がある。それらを集めると次のようなアドバイスになる。

1)継続できるセルフケアであること

シンプルで、楽しくて、マインドフルネスであること。どんなに良いことでも、面倒なことは継続できない。

2)健康な食事とエクササイズ

イライラするとジャンクフードを食べたくなるものだが、そうすると身体の調子が悪くなる。そういうときこそ、ちゃんとした食事をして、運動をするべき。運動して汗をかくと、それだけで気分が改善することがいろいろな研究でわかっている。

3)睡眠をとる

寝不足になると、それだけで心身への影響が大きくなる。優先順位が低いことや無駄なことを切り捨てて、ともかく寝る。

4)同じ情熱を持つ人と繋がる/社会のためになることを実際にやる

同じことを思っている人と愚痴を言い合うと落ち込むだけだが、一緒に他人や社会のためになる活動をやると気分が明るくなり、前向きになれる。

5)自分と身近な人がハッピーになることを考えて、実行する。

自分がハッピーになること、伴侶や家族がハッピーになることを考えてみる。そして、小さなことでいいので、実行する。誰かを幸せにする喜びが自分の喜びにもなる。

最近の私が政治についての記事を書かないのは、この「セルフケア」の一部でもある。

自分でも気づかないうちにストレスがたまっていたようで、長引く頭痛や疲労を持病の自己免疫性疾患の一部だと思って無視していたら、アレルギーから慢性副鼻腔炎、中耳炎まで併発していた。かなり悪化してしまったらしく、抗生物質を服用せざるを得なくなってしまった。そこで、開き直って「わがまま」になり、睡眠を優先し、セルフケアをすることに決めたのだ。


自分の人生にとって一番大切なのは何だろう?
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アメリカはいつも夢見ている

渡辺由佳里

「アメリカンドリーム」という言葉、最近聞かなくなったと感じる人も多いのではないでしょうか。本連載では、アメリカ在住で幅広い分野で活動されている渡辺由佳里さんが、そんなアメリカンドリームが現在どんなかたちで実現しているのか、を始めとした...もっと読む

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asagata_ 本当は疲れているのに、あれしなきゃこれしなきゃと思った時に読みたい記事。 周りの理想像を実現するために自分にとって優先順位が低い事をしていた時ありました。 https://t.co/BMVwz2HqIY 約1ヶ月前 replyretweetfavorite

sisidokomaki 久しぶりに読めた!美しい自然が沁みる… |渡辺由佳里 @YukariWatanabe |アメリカはいつも夢見ている https://t.co/vU7upVDHmi 約1ヶ月前 replyretweetfavorite

jpub_news 簡単な解決策がない時のセルフケア| 約1ヶ月前 replyretweetfavorite

mikastrology 簡単な解決策がない時のセルフケア|渡辺由佳里 @YukariWatanabe | 約1ヶ月前 replyretweetfavorite