※牧村さんに聞いてみたいことやこの連載に対する感想がある方は、応募フォームを通じてお送りください! HN・匿名でもかまいません。/バナー写真撮影:田中舞 着物スタイリング:渡部あや
おじいちゃんへ
元気ですか?
空から何が見えていますか?
おじいちゃんを見送ったお葬式の帰り、お通夜で酒食らった真っ赤っかの酔っ払い老人から、「お孫さんかぁ。俺はなぁ、あんたのおじいさんをお金のことでだましていたんだよぉ」って、酒席の冗談みたいなノリで笑いかけられたあの日から、もう十年経ちました。
あの酔っ払いは、許されたかったんだと思います。わたしを通して、おじいちゃんに。
自分がだました人間が、ぱたっと死んでしまっては、罪は裁かれることこそあれど、決して許されることはない。
だからあの酔っ払いは、わたしを選んで……おじいちゃんの血を引いた遺族の中でも、一番弱くて言い返してこなさそうに見えたのであろう黒髪ロングでマルイ喪服の女子学生だったわたしを選んで、あんなことを言ったんです、タメ語で。「金を横領していた俺のことを、それでも、あんたのおじいさんはずっと信じて、毎月託し続けてくれたんだ」……いい話っぽく演出しながら。
おじいちゃん。
十年が経ちました。何も言い返せなかったマルイ喪服学生だったわたしは、何か言うことに生命と生活を懸ける33歳の文筆家になりました。この文章はおじいちゃんへの手紙であり、同時に、cakesというWEBメディアの連載記事でもあります。
(そう、インターネットの記事です。おじいちゃんは、孫であるわたしに変な見栄を張らずに素直にインターネットの使い方を聞くことができる、そもそも当時新しかったインターネットを積極的に使いたがる、そういう人でしたね。)
さて、なぜわたしがこの手紙を、遠いお空ではなくインターネットに捧げているのか。こういう書き方を選んだのは、この話が……この、お金と力関係の話が、おじいちゃんと酔っ払い老人の間のことに限らず、「人間」のことだと思ったからです。インターネットを通して、cakes読者の皆さんに広く読んでいただくことに意味があると思ったからです。
そういうわけで、わたし、別にね、あの酔っ払い老人に言い返したいだけってわけじゃないんですよ。ずいぶんな歳に見えましたからもう死んでいるでしょうしね。あと、「天国のおじいちゃん大好きだよ、感動〜✨学び〜✨」みたいなことをやりたいわけでもないです。そんなことならマジで心でやればいいのであり、インターネットで発表する意味がないし、なにより、死んだ人のことをキラキラ神格化したくないからです。相手がおじいちゃんでも。
それではサクッと本題です。
おじいちゃん、もしかして、お金で立ち位置を買っていたのではありませんか?
だとしたらそれ、2020年にも大流行なんですよ。
って、話です。今回、したいのは。
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