台風の訪れとともに深まる秋。我々野食ハンターにとっては、秋は一年で最も祝福された季節です。季節を問わず「野食やろうぜ!」と呼びかけているぼくですが、そのなかでも秋は入門に最もオススメの季節なので、勧誘(オルグ)する手にもつい力が入ります。
大丈夫、野食は怖くないよ!(ニタァ……!)
さてしかし、いざ初心者の方を野食にいざなうとして、どのジャンルからやるのがオススメなのか。諸説あるかと思いますが、ぼくは「海釣り」なんじゃないかと思っています。
秋の収穫というとキノコや木の実などを連想される人はきっと多いと思うのですが、これらの対象は普段食べていないマニアックな食材ばかりになり、始めるにあたりどうしても最低限の「判別の知識」が必要です。
一方で「秋の」海釣りは対象魚がごくごく一般的なものたちなので、食べるに当たり判別の知識を必要としません。もちろん釣りなので「道具」が必要になり、また「釣り方の知識」も求められますが、いずれも小一時間もあれば初心者でもすぐに身につけられるもの。お金も時間もかけず、思い立ったその日から野食ハンターになることができるジャンル、それが「秋の海釣り」なのです。
とこのようにお伝えしても「でも釣り具って高いと聞くし、餌もミミズみたいで気持ち悪いし、はるばる遠くの海まで行くのは面倒だし」といって敬遠される方も多いでしょう(ぼくもしょっちゅう言われます)。そんな皆さんの為に、この時期最もオススメかつよく釣れ、味も保証できる獲物を、それをゲットするための最低限の知識とともにお伝えしたいと思います!
世界で一番美味しいアジ「金アジ」
今回ご紹介したいターゲットはずばり「アジ」です。
皆さんご存知の鯵ですね。
こんな勿体ぶった前置きからのアジかよ……普通過ぎ……という声が聞こえてきそうですが、あなたが想像したそのアジと、今回ご紹介するアジは似て非なるものと言ってしまっても過言ではありません。
私たちが普段食べているアジはマアジと呼ばれる種類ですが、マアジには実は2つのタイプがあります。外洋を広く回遊し大きくなる系統のものと、沿岸性が強く、定着してあまり大きくならない系統のものです。
前者は細長く黒っぽいので「黒アジ」と呼ばれ、後者はあまり大きくならない代わりに幅が広く、全身が黄色っぽくなるので「黄アジ」と呼ばれます。
鰭の黄色味が特徴的
この黄アジのうち、主に東京湾奥の横浜~川崎沖にかけて棲息する20~30㎝程度のサイズのものを通称「金アジ」と呼ぶのですが、これこそがぼくのもっともおススメする秋のターゲットです。
上記の通り黄アジ自体は内湾に多く棲息しており、全国的なものなのですが、東京湾の金アジは業界でも最高峰のものとして認識されています。東京湾の小アジなんて味もたかが知れてるんじゃないかと思いきや……この金アジは魚のプロたちが大絶賛し、ときにあの有名な「関アジ」をも超えるとまで言われることもあります。
何が違うのか、それは脂の乗り。
釣れた金アジを処理しようとしてはらわたを出すと
これがみっちり詰まっている
寒気がするほどの内臓脂肪の量に愕然とします。
人間だったら即再検査⇒メタボリック症候群で入院のコンボを決めそう。当然ながら皮下脂肪もたっぷり乗っており、口にすると舌の温度でとろけて陶然となります。
ここまで脂が乗るのはやはり、東京湾の豊饒さゆえ。狭い海域に何本もの大河が流れ込むこの湾はプランクトンの棲息量が非常に多く、結果としてアジの餌も豊富になります。また湾奥には埠頭やシーバースなどといった人工的な障害物が多く、そこにつくカニやエビなどの小動物もアジの良い餌になります。
もともと定着性の高い黄アジが、東京湾奥の障害物周りでのんべんだらりと酒池肉林を楽しんでいる、それが金アジなのです。
この金アジ、一本釣りものはなんと、市場への卸値が2,500円/kgにもなる時があるそう。これはあの誰もが知る高級魚・ノドグロ(アカムツ)にも匹敵するものです。これ、周りの人に話すと、驚くほどに知られていない。
最近では東京都心にも関アジが鮮魚で入っておりいい値段していますが、首都圏に住んでいるなら東京湾の金アジを食べたらいいのにと思います。
いやまあ関アジも抜群に美味いけど、青魚は基本的には鮮度が命だからね。
舌が肥え、釣りの腕も卓越した玄人釣り人たちも、この時期になると6000円も払って釣り船に乗りこみ、この小さなアジを血眼になって狙います。金アジは、かつて「江戸前の幸」が日本一の高級品だったころの面影を今に伝えるものと言えるのかもしれません。
金アジは誰でも釣れる!
金アジの魅力をたっぷりと伝えたところで、さっそくその釣り方についてもお伝えしていこうと思います。
といっても、金アジならではの特殊な釣り方があるわけではありません。また先ほど「船に乗って狙う」と書きましたが、実は金アジは陸からでも簡単に釣れます。
東京湾奥、新木場~金沢八景くらいまでならどこの岸壁にも回遊してくると思います。京浜運河とかでも結構釣れるんだよね(あんまり奥まったところのだと臭みが心配だけど)。
さて、陸から金アジを釣るときに用いられるのは「サビキ釣り」という釣法なのですが、これが実に初心者向けの簡単な釣りです。
サビキ釣り仕掛け
簡単に説明すると「寄せ餌を撒いて、たくさん針の付いた『サビキ仕掛け』というものを寄せ餌の煙幕の中にくぐらせ、間違って食いついてきた魚を釣り上げる」というもの。ミミズみたいな餌を針につける必要がないし、撒き餌で魚を寄せるので難しいテクニックも必要ありません。
なにより、おおむねどの釣具屋でも、店頭に「サビキ釣りセット」なる商品がこの時期になると置かれており、それと撒き餌(これも一緒に置いてある)さえ購入すれば、すぐに始めることができるのです。完全な手ぶらで行っても、3000円ほどあれば一通りそろうかと思います。
ついでにその場で店員さんに「アジ釣りたいんだけどどこ行けばいいですか」と聞けばオススメの釣り場を教えてくれます。
より確実に釣りたければ、東京湾内にある各海釣り公園のウェブサイトで「釣果情報」を確認すると、どこで何時くらいに金アジが釣れているかが一目でわかります。公園に向かえば確実ですが、その近くの堤防や親水護岸で釣っても、まず釣れると思います。
金アジの釣り方
サビキ釣りは前述の通り「撒き餌を撒いて魚を寄せる」釣りです。そのためテクニックは「針を絡ませないように仕掛けをまっすぐに保つ」「撒き餌を撒く」「アジのいる水深に仕掛けを漂わせる」の3点のみ。
釣りが全く初めて、という人は、リールの使い方をYoutubeなどで予習しておくのが良いでしょう。そのうえで
・仕掛けが海底に着底したかどうかを感じ取る
・糸がたるんでいないかを絶えず注意する
この2点のみ、まずは何とか体得してみてください。竿先の動き、手元に伝わる「コトン」という感触、こればかりは文字で伝えることはできません。でもやってみるとめっちゃ簡単だから大丈夫です。
これらをマスターしたら、いよいよ釣り開始。
仕掛けの一番下についているおもり付きのプラスチックのかごに、撒き餌を8分目くらいに入れて、足元の海中にするすると落としていきます。
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