バンコクを旅して
八月後半の一週間、家族旅行でバンコクに行きました。
タイで体感したのは、中間所得者層の底上げ、そしてそれに伴う物価の上昇です。タイはいまでは、格安でいろんな娯楽が楽しめる、かつて日本人が求めていた観光地ではなくなってきているようです。
ホテルはペニンシュラに宿泊しました。むろん高級ホテルではあるのですが、それでも高い。一番驚いたのは、プールサイドで飲んだ白ワイン。一杯六〇〇バーツと書かれていて、はじめはピンと来ないのでどんどんお代わりしていたものの、よくよく考えると一バーツは約三円。つまり一杯一八〇〇円。気がついたのは三杯目を飲み干そうというときでした。ディナーのバイキングは、家族三人で七〇〇〇バーツ。娘は大好きなバナナを食べたいだけ食べてご満悦でしたが、バナナ代にしてはかなり高い(笑)。
これはペニンシュラだけの話ではなく、タイ全体の物価が上がっているようです。コンビニでミネラルウォーターのミニボトルを買うと、一本二〇バーツ。日本にくらべればまだ安いけれど、超安いという感じではない。タイでは昨年から今年にかけて最低賃金が変更され、大幅に引き上げられたともいいます。
バンコクの中心部にはチャオプラヤ川が流れており、高級ホテルが川沿いに並んでいます。各ホテルはそこからはしけを出していて、船着き場に行って乗り合いボートに乗り換えるのが普通なんですね。しかしぼくは最初それを知らなかった。ワット・プラケーオという寺院に向かおうとしたら、家族三人で移動するだけなのにボートのチャーターになってしまい、ここでも九〇〇バーツを支払いました。これはふっかけられたのだと思い込んでいたのですが、調べてみるとそういうわけでもないらしい。ワット・プラケーオに着くと、今度は入場料がひとり五〇〇バーツ。入国時に二、三万円をバーツに換金して、これでしばらく遊べるだろうと思っていたら、まったく見込み違いでしたね。
なお、チャオプラヤ川沿いには「アジアティーク・ザ・リバーフロント」という新しいショッピングモールがあります。シャム王国時代の船着き場や倉庫を改築して作られたモールで、とてもにぎわっている。利用客もべつに上流階級という風情ではなく、ごくふつうの高校生もたくさんいました。
タイの文化水準
……と、こういうふうに言うと、そんなところには行けない貧困層がまだまだたくさんいる、おまえは本当のタイを見ていないとお叱りを受けると思います。実際、そうだとは思います。
しかし「本当のタイ」っていったいどこにあるんでしょう。それは考えてみれば東京も同じです。六本木ヒルズを見て得られる印象と、上野のアメ横を見て得られる印象、あるいは新宿のホームレスを見て得られる印象はまったく違います。そしてそのとき、では六本木ヒルズに遊びに来ているのがすべて富裕層で、あそこにはまったく東京の現実が現れていないのかといえば、それもまたまったくの見当違いでしょう。
実際には六本木ヒルズには観光バスが乗り付けて、別に富裕層というわけでもない人々が二〇〇〇円のランチを食べているわけです。それもまた現実の東京。ホームレスや貧困層に注目すれば現実が見えるというのは、それはそれでイデオロギーです。