「病人なんだから」は病人に対して失礼では
病人なんだから厳しい言葉を向けてはいけない、という姿勢は、これほど病人に対して失礼なこともない。病状に対する揶揄はしてはならないが、当人に対する評定まで慎み、万事を無効化するのは、病と戦いながら生きている人の生活ってものを雑に処理している。様々な局面で、いかにして治療を続けながら仕事・暮らしを維持できるかが模索されているし、今回ならば、安倍晋三首相は会見で「(辞任後は)一議員として支えてまいりたい」と述べている。議員としての仕事を続けるのだ。仕事を続けるのならば、これまでの仕事が問われなければいけない。実際の体調を外野から知ることはできないが、本人が議員としての活動を継続する意向を示している以上、彼がこの8年近く何をやってきたのか、引き続き厳しく査定されるのは当然のことである。
「明日からダイエットをやろうと思っています」政治
安倍に向かう手厳しい声に対して、「『お疲れ様』くらい言えないものなのか」(橋下徹)や「選挙に出て総理になってから言ってもらいたい」(金子恵美)などと、特別な立場にいる人が満身創痍で働き終えたのだから、まずは感謝だろうと述べる声がやたらと目立つ。だが、この国の政治制度は、国民が首相を敬う制度ではなく、むしろ、国政における最終的な決定権は国民にあるとする「国民主権」なのだから、代わりに政治を行なっている人・行なってきた人の仕事は常に問われる必要がある。難病を患っていると聞けば、当然、快復に向かうことを祈る。それと、やってきたことを厳しく問うのは、当然両立する。近場から放たれる「病人なんだから」という、勝手に設けられた除外規定を素直に受け止め過ぎではないか。
会見の冒頭挨拶で安倍は、「政治においては、最も重要なことは結果を出すことである」と述べた。これまでも繰り返し述べてきたお得意のフレーズだ。そう述べた後で、実現できたことと実現できなかったことを並べた。実現できなかったことについて、拉致問題の解決、ロシアとの平和条約の締結、憲法改正を並べた上で、「痛恨の極み」「断腸の思い」とした。あたかももう少しで達成できたかのような印象を与える言葉遣いだったが、具体的に動いた形跡はない。ただただ、「いや、ほんと、すぐにでもやろうと思っています」と言い続けてきた事案だ。「明日からダイエットをやろうと思っています」と言い続けることはダイエットではない。
手厳しく問われるべき案件から逃げ続けた
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