※牧村さんに聞いてみたいことやこの連載に対する感想がある方は、応募フォームを通じてお送りください! HN・匿名でもかまいません。/バナー写真撮影:田中舞 着物スタイリング:渡部あや
ようこそ。 ああ、はい、
<marquee>ようこそ。</marquee>
アンタが一体 番目のお客様なのか、今となっちゃあ、わかったもんじゃないね。
むかあし、むかし……そうさね、むかし。
コギャルがパカパカケータイで16和音の浜崎あゆみ鬱ソングを鳴らし、中学二年生の魂を捨てられねえやつらが匿名掲示板で「逝ってよし( ゚Д゚) 」とかなんとか罵りあっていた、あの頃。
草より枯れた(藁)が転がり、アンゴルモアの大魔王が7の月に現れず、誠に遺憾ながら1999年では終わってくれなかった、この、腐敗したセカイで。
FacebookもTwitterもInstagramもPixivもブログも、なあんもありゃしないインターネットの荒野にね、人は、ホームページってやつをおっ立ててたんだ。いわゆる、ホムペだよ。
そこにね、若いの、
「カウンタ」っちゅうもんがあったんさ。
昨日、今日、そして累計で、何回のアクセスがそこのホームページにあったのかをカウントするものだね。777だの3000だのと、キリの良い数字にあたった場合は「キリ番」と言ってね、キリ番報告ページに名前を残していく風習があったんだよ。「3000ゲトしました!^^」とか言ってね。
昔はね、みいんな、自分のホムペにカウンタつけて、ゲストブックを置いてお客さんを待ったもんさ。特段ITに強いわけではないやつも頑張って調べて、レンタルCGIを借りてね。CGIBOYとかCGI CANDY BOX!とかで。
アタシもそうして頑張ったもんさね。世の中にゃあ、
ホームページビルダーちゅうて、
ホームページを簡単に作れるソフトもあったけども、それを使っているのがバレたらダサいと思いこんじょった。
それにホームページビルダーじゃあ、ソースコードの中に秘密のメッセージを潜ませるのにも一苦労じゃないか。そんなわけでね、アタシたちゃHTMLちゅう簡単な言語を勉強してホームページを作ったもんさ。最初みたいに、←こういうタグっちゅうやつを、秀丸エディタやなんかのソフト使って打ってね。「タグ手打ちで作ってます;;」とか言うてね。
作ったもんをインターネットにあげるにも一苦労、FFFTPっちゅうソフトを使って、バイナリがどうのパーミッションがどうのと難しい設定に悩みながら試行錯誤したもんさね。“「ホームページを誰も見てくれない」と落ち込んでいたら、そもそもインターネットにあげていなかったことに気づいた”なんて笑い話もあったもんだよ。
それが今は、どうだい。
カウンタで「お客様」と言っていたもんをね、味気ないもんだよ、「PV」だなんて言葉に置き換えて競いあうようになっちまった。キリ番報告なんて文化も、もちろん、消滅だ。
アタシたちゃ、「ホームページ」っちう感覚をなくしちまったんだね。
インターネット上に自分自身のホームを持ち、来てくれるお客さんたちと交流する、また別の人のホームにもお邪魔しにいく。そういう、「ホームページ」っちう感覚をなくしちまったんだね。「ゆっくりしていってね!!」という精神を。
なんだと言ったっけねえ、エス・エヌ・エス?
大企業に開発整備された大都会状態のインターネットで、帰るべきホームも持たず、ソーシャルなネットワークで「脂肪ドババッ!」「その英語はネイティブに笑われる!!」みたいな広告を見せられることと引き換えにサービスを受けている消費者の群れ。アタシたちゃ、飼われちまったんだ。「これさえ買えば済む」ってお膳立てされた大量消費社会でね、欲しいものを自ら作り出したいという野性的創造力を、豊かで空虚で魅力的な商品の山に埋め立てられちまったんだよ。金、金、金だ。消費、消費、もっと消費を。どうだい、ごらんの有様だよ!! インターネット史、まさに戦後日本史の繰り返しじゃないか。
ねえアンタ、
インターネットにホームはあるかい?
それぞれの場所に帰属意識を持ってるモンがいるんだろうさ。
Tiktokとの合併許すな!なあんて、どこか嬉しそうに騒ぐ日陰のツイッタラー。
Facebookの友達欄を特定の性別や容姿や国籍の人間で埋めたがる、“友達”500人のコレクター。
Instagramに楽しげなストーリーズを上げては、元恋人から既読がつかないか確認してしまうインスタ民。
ニコニコ動画で育ち、ボカロ曲をアンセムに生きているニコ厨たち。
Soundcloudに上げた自作曲に、海外の人から感想をもらえたと思ったらスパムだったとかで一喜一憂しているDTMer。
自分のことを“2ちゃんねらー”よりもツウだと思っている、ふたば民。
亡くなった芸能人のアメブロに毎日来て、空に呼びかけるように日記を書いて、ファン同士の交流はしないけれども他のコメントを読んでいる、自分のアメブロは持たないけれども書いている読者たち……。
文章、イラスト、動画、音声、音楽、写真、ダンスにメイク。
インターネットの大海に、想いを込めて投げた小瓶が、どんぶらこっこと流れていって、遠い誰かの画面に届く。インターネットってなぁね、そういうものだったと思うんさ。アタシみたいな、なぁ〜んもなかった時代の野っ原育ちの老いぼれはねえ。
わかってるさ。
昔話しかしなくなったら、人間はもうそこから動けないんだって。
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