「女ってのは……」の能力差別と根深いミソジニー
男性優位主義は、「女ってやつは所詮、こういう生き物である」という決めつけに基づいている。男の言い分からすればそれは「男性との差異であり、区別」だが、「区別」が「差別」の言い換えであることは、「区別」された側にしかわからない。『こち亀』から該当するセリフを拾ってみよう。
- 両津「女ってのはすぐ責任転嫁しやがる」:78年35号「モンスター・ポリスの巻」(11巻)
- 両津「いかに美人でもゆるせん! 女はすぐ感情的になる!」:78年41号「麗子巡査登場の巻」(11巻)
- 両津「女はひとつのことしか頭にはいらん!」:79年3・4号「歳末サバイバルの巻」(13巻)
- 中川「女性はすぐ感情的になりますからね」: 80年10号「マイク・パワー…の巻」(18巻)
- 両津「よせ本田! 若い女と口争いでかてるはずない!」:80年38号「本口リカ登場の巻」(21巻)
- 戸塚「『かわいい』か『かわいくない』か物事すべてこのふたつだけだぞ、女ってのは!」/両津「なるほど とうとうそこまで単細胞になってしまったか」:84年46号「ペンションの朝の巻」(42巻)
- 両津(カスタムカーの設計をしているところに割って入った麗子に一言)「女なんか創造力がねえんだから、食う 着る 遊ぶ この3つだけ考えてりゃいいんだよ。あっちいけ!」:85年32号「カスタムカー大集合の巻」(46巻)
- 婦警(浅草サンバカーニバルに過激な格好で参加したくない理由を両津に問われ)「嫌だから嫌なの!」/両津「出た。女 得意の否定の仕方…」:95年36・37号「浅草サンバカーニバル(前編)の巻」(95巻)
『こち亀』はこのような「女ってやつは所詮」を根拠に、しばしば異様に単純な男女の対立構図を作って両津に参戦させる。それはさながら、小学校の教室における「小学生男子VS女子の口論」レベルの代物だが、根っこにはそこはかとない卑屈な香りが漂っていた。女子とコミュニケーションを取れない、取るのが苦手な、後年の内向サブカル男子の苗床になりがちな、ミソジニーの香りが。
それはまた、「弁の立つ教室のうるさい女子」に対する嫌悪感でもあり、今までナチュラルに許容されてきた「男性優位主義」を脅かすフェミニズムに対する、拒絶反応でもある。
87年40号「のぞき魔生け捕り作戦の巻」(56巻)で両津は、銭湯ののぞき魔を一網打尽にすべく女湯に婦警を入浴させておくことを提案。抵抗する麗子に対し、「男子警察官は体を張って働いてる」「夜勤もせず! 力仕事もせず! 月一回休みをとりやがって!!」と逆差別を主張し、あたかも被害者であるかのごとく鬼の形相で詰め寄る。
92年29号「野性の証明!?の巻」(80巻)での両津は大原部長に、署のアンケートで「結婚したくない男ナンバー1」に選ばれたことを告げられたあと、中川と麗子に「アダルトビデオを見るのは両津だけ」と決めつけられ、「汚い物を見るような目で言いやがって、くそ!」と悔しがる。
その後両津は私物のアダルトビデオを間違えて婦警たちに持っていかれ、それを見られて変態扱いされるが、両津は婦警たちのいる女子寮全室のテレビに自らの性器を晒して嫌がらせし、復讐を遂げる。同編に限らず、両津が婦警(=女子)に対して幼稚なケンカを仕掛ける(もしくは復讐する)オチのパターンは少なくない。
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