動物に性的に惹かれる自分を許せない

今回、牧村さんのもとには「犬や馬のメスに性的に惹かれます」という女性の方からのお悩みが届きました。「許されない欲望を抱えながらそれを自覚して生きていくことは苦しいです。自分を許せないと思う瞬間があります。それを乗り越えるにはどうすればいいでしょうか」と悩む投稿者さんに、牧村さんはどんな言葉をかけるのでしょうか。


※牧村さんに聞いてみたいことやこの連載に対する感想がある方は、応募フォームを通じてお送りください! HN・匿名でもかまいません。/バナー写真撮影:田中舞 着物スタイリング:渡部あや

毎週水曜朝10時、「ハッピーエンドに殺されない」。

おとぎ話はいつも姫と王子が結婚してハッピーエンドじゃん。自分は女性とされて生まれたのだから、女性を性的に欲するなんて許されない欲望だ……って思い込んで生きてきたんだけど今はもうラジオで「貝合わせ会議〜!!」とか大はしゃぎしている人間が書いている連載です。ガチ百合ボンバー。

今回ご紹介するのは、「動物とセックスしたい、という、許されない欲望を抱えながら生きていくのが辛い」というおたよりです。「許されない」って、誰に? なぜ? 考えていきましょう。まずは、おたよりをご紹介します。

私はレズビアンで、ズーフィリアです。犬や馬のメスに性的に惹かれます。

ずっと大切にしてきた愛犬が亡くなりました。私は愛犬を愛していましたし、虐待であるため性的な行為をしたことはありませんでしたが、彼女に性的興奮を覚えたことは1度や2度ではありませんでした。愛犬が私の足の間から割って入ってきて、私にのしかかって首筋を舐めた時、「ああ、これから私は彼女とセックスをするのだ」と思ったことを今でも覚えています。結局そうはならなかったのですが。

その後、初めて人間の女性と交際しました。ですが、彼女とキスをしても、彼女の肌に触れても、愛犬に首筋を舐められた瞬間の愛犬しか見えなくなるような興奮、火花が散ってそれが一瞬で燃え広がるような感覚、あの感覚とどうしても比べてしまいます。動物とセックスしたいという思考が頭にチラついてしまうと本当に自己嫌悪に陥ります。

彼女のことが好きで、これからも一緒にいたい、幸せにしたいと思っています。その中で、動物と性的な関係を持ちたいと思うことを止められません。

私はずっと、動物に手を出すことは許されないことだし、死ぬまで一人でこの欲望を抑え込んで生きていこうと思っていました。性的に満たされることや、誰かと愛し愛されて幸せになることを諦めていました。

ここまでが前置きです。長くなってしまって申し訳ありません。 まず、生きてきて、ここ1年くらいでようやく、自分が動物を性的に愛していることを認められるようになりました。それでもやはり、許されない欲望を抱えながらそれを自覚して生きていくことは苦しいです。自分を許せないと思う瞬間があります。それを乗り越えるにはどうすればいいでしょうか。

そして、彼女とのセックスの際に、動物に対してほど興奮できないことも辛いです。彼女のことを愛しているからそれでいいじゃないかと思うのですが、それでもどうしても身体的な感覚とのギャップが苦しいです。 これらのことと、どう折り合いをつけていけばいいでしょうか。

(全文拝読の上、個人を特定できないよう編集して掲載しました)


まずは、お悔やみを申し上げます。日々を共にしてきた愛犬とのお別れ、辛いという言葉では表し切れないほどのことだったでしょう。

あなたは愛犬のことを「彼女」という三人称でお呼びになる。わたしもそれにならわせてください。彼女と直接には触れ合えなくなった今も、きっと、彼女があなたの首筋を舐めたときの感覚が、息遣いが、重みが、匂いが、あなたに残っていることでしょう。身体に残る感覚として。

あなたにとっての大切なその感覚が、罪悪感の黒い雲にへだてられて霞んでしまうのは、あまりにも、悲しすぎる。

あなたは確かに彼女を愛した。
愛したがゆえに欲望を抑えた。

今でも抑える力の強さが、捧げる先を失った愛の暴走みたいに、わたしには、見えるんです。

あなたは、あなたを苦しめなくていい。あなたの感覚に残る彼女の存在を、抱きしめることが罪だと、抱きしめたい欲望に抗うことが愛だと、あなたはおっしゃるのでしょうか。喪失の空隙を、苦しみで埋めようとしてはいらっしゃいませんか。

埋め立てるより、満たしましょう。

あなたはいつでも何度でも、その感覚を甘く思い出していいんです。その感覚は、確かに彼女があなたの中に残してくれたものですから。外野の誰がジャッジしようと、それは、彼女があなたの中に残してくれたものですからね。

聖なるズー』、お読みになりましたか?

昨年の開高健ノンフィクション賞受賞作です。動物をパートナーとして、どうにか対等な関係を築こうと模索しながら暮らす人々と、人間の男性に10年間ものあいだ性暴力をふるわれつづけた経験を乗り越えるために文化人類学を学ぶ著者とが、共同生活を通して向き合った記録の書です。

タイトルの「ズー」とは、動物と性愛含む対等な関係を築こうとする人々のあり方を指す言葉です。

“動物に暴力を振るわず、また、動物の性を無視せずに、それを当たり前のこととして受け止めつつ、性を含めてケアをする。そのときに実際の性行為があるかどうかはそれほど重要ではありません。”

集英社『青春と読書』|『聖なるズー』著者・濱野ちひろ氏インタビューより

動物の意思を無視して姦淫することを「獣姦」と呼ぶならば、「ズー」は、動物の意思を、性を、無視しない。

「動物の性を無視しない」という表現。

わたしはドキッとしましたね。確かに、愛玩動物として人間と暮らすことになった動物……犬や猫やフェレットたちなどは、動物の意思によらず、人間の手によって、去勢・避妊手術をされます。いつまでも大人にならない、いつまでもちっちゃな「ウチの子」として愛玩されるわけです。

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ハッピーエンドに殺されない

牧村朝子

性のことは、人生のこと。フランスでの国際同性結婚や、アメリカでのLGBTsコミュニティ取材などを経て、愛と性のことについて書き続ける文筆家の牧村朝子さんが、cakes読者のみなさんからの投稿に答えます。2014年から、200件を超える...もっと読む

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コメント

AHtCG2 私も救われた…ありがとう 誰かに伝えられたら良いな 2ヶ月前 replyretweetfavorite

granat_san この記事で初めて動物の性について考えた。 2ヶ月前 replyretweetfavorite

sibawannco https://t.co/tO6dHH5dKT 2ヶ月前 replyretweetfavorite

sisoumani 人を選ぶ記事だと思うけど、とても誠実に大切なことが書かれていると思った 2ヶ月前 replyretweetfavorite