はじめに
2018年の夏、Instagramにひっそりと開設された謎のアカウント「少女礼讃」。毎日投稿される大量の写真には、すべて同じひとりの女性が写っていました。この撮影者名も被写体名も不明のアカウントは、写真家・青山裕企さんによるもの。その尋常でない更新スピードと、執拗に「少女」だけを撮影し続ける異様さは、見るものの胸中に名状しがたい感情と憶測を生じさせました。
当時よりアカウントの正体を知り、一種の「少女」中毒に陥っていたnote株式会社の一部社員たち。新しい写真が更新されるごとに「この少女は誰なのか」「青山さんと少女の関係は」「そもそも『少女礼讃』とはなんなのか」 と大いに翻弄されました。
2019年に、青山さんがこのうち4名に対し行ったインタビューに見える当時の混乱ぶりと、完成した『少女礼讃』を読み、それぞれが手にした「『少女礼讃』とは何だったのか?」の答えを、全4回でお届けします。3人目の少女中毒者は、弊社社員CTOの今雄一です。
少女は、なぜメガネをかけているのか?
青山裕企(以下、青山) はじめに、“少女礼讃”という作品を見て、率直にどういう感想や印象を持たれましたか?
note株式会社CTO・今雄一(以下、今) 引っかかり感が、すごかったですね。なんていうか、アイドルとか女優みたいなコテコテな美形っていうわけではないんですけど……。あと、謎な闇を感じますね。
青山 闇っていうのは、心の闇みたいな?
今 そうですね。あとは、メガネのあるなしで表情がまるで変わるのにびっくりしますね。メガネを外すと、おっ!と思って。笑顔と、そのほかのじっと見つめるよう表情との差は、本当に同じ人なのかなって。いろんな表情があって……この子は一体誰なんだろう、っていう。
青山 少女という存在は、とてもギャップがあると思うんですね。外から見た雰囲気と、内に秘めた内面のギャップだったり、幼さと大人びた雰囲気のギャップだったり。
“少女礼讃”をテーマに撮影しようと思ったのは、この子を撮りはじめてからなんです。この子自身が、ものすごくギャップを抱えた、少女性で溢れていたので、撮っても撮っても新しい少女の姿が出てくるみたいな、不思議で稀有な感覚でした。
今 じゃあ、被写体ありきの作品なんですね。
青山 そうです。やっぱり我々……ってまとめちゃうのもあれなんですけど、男性が描く少女像ってとても一面的で、ジブリのヒロイン的な天真爛漫なイメージだったりするんですね。もちろん好きですけど。
でも、少女側から考えてみると、少女自身の欲望だってあるし、邪(よこしま)さとか、先程おっしゃっていた闇があったり……多面的で複雑で。そのどちらもあってこその少女だと思うので、どちらもしっかり撮りきることが、少女を表現することなんじゃないかと考えています。
対して、『スクールガール・コンプレックス』という作品では、理想だけを妄想しているようなイメージだったので、同じく女の子を撮ってるようで、結構対称的な作品になっています。『スクールガール・コンプレックス』は、顔が写っていないし本当に女子学生かもわからない謎の少女がたくさん出てくるのに対して、“少女礼讃”では、とにかくリアルで具体的な少女がひとりしか出てこないんだけど、存在が完全に謎に包まれているという。
今 確かに、全然違いますね。ところで、このメガネはなぜかけているのですか?
青山 この子が撮影前から実際にかけている私物のメガネなんですね。そして、一個しか持ってないからずっと同じなんです(笑)。リアルでありながら、記号的なアイテムになっていますね。
今 確かに、ずっとメガネが変わってないですよね。
青山 あえてメガネをかけさせたら、この作品の場合はちょっと違うんじゃないかと思うので、メガネを外した時のギャップも含めて、この子の持つ天賦なんだと思います。
メガネは文化系で真面目な印象を持たれやすいのですが、だからこそ外した時に大人びた表情を見せると、ギャップが凄まじくなるんですね。
今 こんな子は、なかなかいない気がします。あとは頻度というか、毎日のようにアップされるので、記憶に残りますね。あ! またこの子だ、みたいな。
“少女礼讃”は、狂気を感じさせる作品でありたい
青山 今後の写真表現について、本業なのでいつも考えているのですが、誰でも簡単に撮れるようになっているのは良いことだと思う反面、やっぱり脅威に感じることもあるんですね。
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